Cinema No. 344

August 2004

JSA

韓国映画、「JSA」を観た。

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北朝鮮と韓国を分ける38度線、南北双方の行政管轄外に置かれている特殊な区域、「共同警備区域」を舞台にした悲劇。

11発の銃声、2つの死体。現場に残っていたのは10発の弾丸、現場に居合わせた南北の兵士2人。黒澤明の「羅生門」のように証言が食い違う。そして消えた1発の弾丸の行方。サスペンスとして観ても引き込む導入。女性捜査官がお互いの証言の矛盾に気づき、真相に近づいていく。そこには、南北の運命に翻弄される悲しい友情の物語が、っていう話。

北朝鮮と韓国の間の軋轢に関してほとんど何も知らないけれど、この両国が抱える問題の深さ、悲しさを垣間見ることができるという意味だけでも、この映画は観る価値がある。「シュリ」でも南北の断裂が生んだ悲劇を描いていたけれど、シュリとは全く違うアプローチで問題を捉えようとしたこの作品では、兵役に着いている人たちにすればありえないかもしれないけれど、一般的な感覚では十分ありえそうな、感情移入の比較的容易な設定を持ってきたおかげで観るものにとってはよりリアルに感じられるのではないだろうか。

映画自体も、プロット、映像、編集、演技、全て一級だったように思う。唯一残念だったのが、英語を話すスイス人役の人物が全く演技できてなかったことか。日本映画でもよくあるけど、外国語を話す場面だと演技できてるのかどうかどうでもよくなってしまうのか、適当な役者や適当な演技で満足している部分があるように思う。他の役者の名演の中で、こういう三流の役者が混じっていると、演技じみた演技に一気に作品世界から引かされてしまう。些細なことだけど、惜しいだけに気になってしまいました。

好み評価:☆☆☆1/2

Legend of Mexico

ジョニー・デップ、アントニオバンデラス主演、「レジェンド・オブ・メキシコ」を観た。

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これまたくだらない映画を観てしまった。誰かが面白いと言っていたんだけど。ギャグもいまいちだしストーリーもあってないようなものだし、悪役もあんまり強くないし、全てが中途半端な映画でした。

デップ目当てに観ようと思う女性ファンの人でも、これは期待はずれに終わると思う。

好み評価:☆

Matchstick Men

ニコラス・ケイジ主演、「マッチスティックメン」を観た。

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リドリースコット監督作品なんだけど、詐欺師の親子の交流を描く。観終わってみればワンアイディアを2時間かけて演出しただけの映画なんだけど、そのワンアイディアをよくあそこまで活かしたなと、そのへんに少し感心。でもあんま面白いとは思わなかったな。

好み評価:☆☆

Dogville

ニコール・キッドマン主演、「ドッグヴィル」を観た。

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ラース・フォン・トリアー監督の最新作。この作品については予め何も知らなかったのだけど、ダンサーインザダークの監督がキッドマンを使うとどうなるんだろうと気になって借りてみた。

噂の「ドグマ95」に則った人間ドラマだけど、これはかなり衝撃的。

まず見始めてすぐ目に飛び込んでくるのが、演劇の舞台のようなセット。「dogville」という名前の村が舞台なのだが、家々は地面にチョークで描かれているだけで、壁もドアもない。登場人物たちは、パントマイムのようにドアを開け、ドアが開く音だけがする。けど、この演劇のような舞台は、物語が進むにつれ不思議と全く気にならなくなる。次第に、これでなくては成り立たないと思わせるほどだ。

内容は古典的な悲劇のプロットを辿るが、その過程で人間という生き物がどういうものか、人間社会のmicrocosmとして描かれる。そしてそれが非常に巧妙で、まるで舞台に壁が無いことが象徴しているように、人間のダークサイドを暴露していく。

なくても全く気にならなかった余分なものが、一度当たり前になってしまうともう手放すことはできない。そして欲望はエスカレートしていく。
ある人が同じようなことをいつか言ってたな。作ってしまったものを手放せないのが人間。核兵器とかトイレとか。

そして物語はある結末に向かっていくのだが、ここでこの作品の本当の凄さに気づく。プロットを追いながら、自分がこれからの展開の方向性に対してある願望を抱くようになっていることに気づくのだ。

トリアー監督は、「dogville」の人々の醜さを見せつけることで、人間の正体を暴くことに飽き足らず、この映画では、観ている者までもそのような人間の一人なのだと、映画の中に巻き込んでしまう。そして見事に巻き込まれた時に、愕然とした。そして、結末から自分が感じてしまっているカタルシスに、さらに突き落とされるのである。

キーワードは「赦し」と「傲慢」

決して「面白い」映画ではないし、間接的な「象徴的出来事」を持ってして真実を語る映画でもない。ストレートで、シニカル。けど、観るものを登場人物に組み込んでしまう映画なんて滅多にない。役者の演技も、不愉快なほどいい。この映画のメイキングとインタビューをまとめたものだけで一つの別の映画になっているというから役者もタダではすまなかったということだろう。必見です。

ちなみにキツめで強そうな美人というイメージのキッドマンが、現在37歳と決して若くないのに、本作では幼く可愛いイメージになっているのが驚き。普段は長い天然パーマの茶色がかったブロンドの髪が、ストレートで短めの白に近い金髪になっていることもイメージを大きく変えた要因かも。こんなに変われるって、女優って凄い。

参考ブログ:
http://homepage.mac.com/hiropage/iblog/C1750046026/E1975262165/
http://www.myprofile.ne.jp/blog/archive/atsushi_009/98
http://nachu.pobox.ne.jp/silver/2004/08/dogville.html

好み評価:☆☆☆☆1/2

(ハル)

深津絵里主演、「(ハル)」を観た。

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深津絵里はもともと好きな女優さんで、今でこそおもろ可愛いという印象の人だけれど、この映画の中の深津絵里は美しい!

96年の映画で、まだネットが、インターネットではなく、「パソコン通信」だった時代の話。映画関連のチャットルームで知り合った(ほし)と(ハル)が、メールによる交流を初め、メール友達ならではの距離感を保ちながら、それでいて段々とお互いの存在を大きくしていく過程を描いた物語。

映画の大部分でメールやチャットの内容をそのまま画面に載せて観客に読ませるという面白い手法をとっている。

高校野球のヘルメットのよこに常に置かれている村上春樹の「ダンスダンスダンス」が度々スクリーンに映るのが印象的。

宣伝や評判を見ているとラブストーリーとして扱われているけど、自分にはこれは友情のストーリーに見えた。友情と、コミュニケーションというコトに主眼を置いたドラマ。恋愛という要素がないわけではないが、それはメインのメッセージではない気がする。

すっきり気持ちのいいドラマ。

好み評価:☆☆☆

Mystic River

クリント・イーストウッド監督作品、「ミスティック・リバー」を観た。
主演:ショーンペン、ティムロビンス、ケビンベーコン

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貧しい町に育った三人の幼馴染は忌まわしい事件によって引き裂かれ、25年後、殺人事件の捜査を担当する刑事と、その被害者の父親と、容疑者として再会する。
全体に、息が苦しくなるような喪失感と怒りが充満していて、終始落ち着いた映像で、物語は陰鬱に、危険な方向に転がっていく。

サスペンスっぽい展開をするけど、人間のダークサイドを描き出した人間ドラマがメインと思われる。

とんでもなく作りこまれた力作。だけど、重い。
すべてのシーンが慎重に描かれて、プロットも巧妙で観る者を引き込むし、役者さんたちの演技も素晴らしいけど、観た後の不快感からやっぱりこの映画を評価することができない。

クリント・イーストウッドが監督としてもここまで出来るってことが驚き。すでにアカデミー賞を受賞しているイーストウッドだけれども、立て続けに傑作を生み出すってのはただ事じゃない。この映画では更に驚いたことに音楽も担当していた。そっちのほうは大して印象を残しているわけじゃないけど、映画のために生まれてきたような人なんだろうなぁと恐れ戦いてしまいます。

好み評価:☆☆☆1/2

In America

ジム・シェリダン監督作品、「イン・アメリカ 三つの小さな願いごと」を観た。

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この映画は本当にいいですよ皆さん。

物語は監督の実際の体験を下に、監督と娘二人の三人で脚本を書いたという極めて私的な作り。だけど、それだけに丁寧に作りこまれ、強烈なメッセージが伝わってくる。

職を求めて、アイルランドからカナダを経てアメリカに不法入国した父、母、姉妹の四人家族。実はこの家族、幼い末っ子の弟を亡くしている。その家族が、貧しい暮らしの中で、心優しい隣人マテオとの触れ合いや、新たな妊娠などを経て、それぞれの傷を隠しながら立ち直ろうともがく現代の寓話。

キャストは、お父さん役の人は見たことなかったけど、お母さんはMinority Reportの預言者アガサ役だった人。子役の二人は実の姉妹で、この子達はまさに天才!この映画の魅力の半分をこの子達の演技が担っているといっていい。そしてとても可愛らしい。この可愛らしさが見る人をストーリーに引き込んでいくんでしょう。
マテオ役の人はどこかで見たな・・と思って調べたら、なんとアミスタッドであの有名な、
「ギブズ、アズ、フディー!!」
を叫んだ奴隷のリーダー役の人だった。素晴らしい演技ですよこの人。

息子の死で魂が死んでしまったという父。役者を目指すが、演技に魂が入らず、芽が出ない。神を呪い、涙も出ない。それでも、娘達のために幸せを演じ続ける父親。見ているだけで痛い。

大切な人の死。夫の目に、死んだ息子の目を見てしまい、まともに見つめられない。これはどれほどの苦しみだろうか。

常にビデオを回し続ける少女。辛い現実を虚構の世界のようにフレームに収めることで、その辛さから逃れようとしている。録画されたテープのなかには弟が生きていた頃の幸せな日々。けど、彼女の純粋な心が、半分ファンタジー、だけど半分リアルな力で、家族を守る。

そう、この物語、超常的なことは何も起こらないけど、ファンタジーなんだ。そして、ファンタジーを信じることで、傷を乗り越えていく。喪失と再生を、最後まで丁寧に描ききった傑作です。

途中、スピルバーグのE.T.のオマージュ的な演出が随所に入るんだけども、この映画を観て初めてE.T.の真相を知る。

劇中、幼い妹がE.T.の映画を観た後に、「E.T.は天国に行ったんじゃなくて、おうちに帰っただけなの!」と力説するシーンがある。これって、普通なら天国に行ったと解釈するところだよ、ってことですよね。僕もこの妹と同じようになんの疑いもなくただおうち帰っただけだと思っていた・・・これは結構ショックでした。

好み評価:☆☆☆☆1/2

化粧師 -KEWAISHI-

化粧師 -KEWAISHI-」を観た。
出演:椎名桔平 、菅野美穂 、池脇千鶴
監督:田中光敏

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素晴らしい。キャストを見て微妙かな、と少し思ったけれど、期待を裏切らなかった。椎名桔平の演技好きかもしれない。菅野美穂も相当微妙な役所をよくぞここまで、というくらい好演している。

展開は王道だけど、物語を引っ張るのが化粧によって女性の心を開く寡黙な化粧師(けわいし)というところが斬新で、何より映像がとても綺麗。大正の町並みと人々の衣装の色鮮やかなこと。

しかしこの物語のベースとして否応無く存在し、男である自分には奇妙に印象に残るのが、本能にも近い、女性の持つ美への憧れ。この映画を見る限り、それはほぼ普遍的な価値に思えてくる。なんなんだろうこの強い感情は。その憧れへ向かって少しだけ背中を押す化粧師。その感情を想像しながら物語を追う。ところどころ少々その心境の変化は強引じゃね?という部分もあるけど許せる範囲ではないかと。

いつのまにかこの大正の世界に引き込まれて、泣かされてしまう。

日本もいい映画あるなぁ、と思わせる一作。

ちなみに。エンドロールで知った、原作は石ノ森章太郎。長編漫画を映画化したのだった。どおりで途中強引な展開があったわけですね。

好み評価:☆☆☆☆

Bruce Almighty

ジム・キャリー主演、「ブルースオールマイティ」を観た。

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ジムキャリーが好きなので借りて観たような感じ。

あまりにもついてない日常を神のせいにして愚痴り続けていた男の前に突然神が現れ、じゃあお前が神をやってみろ、ということで神の力を手に入れる男のコメディータッチ成長ドラマ。

コメディータッチ、なんだけど笑いのほとんどがジムキャリーのキャラの面白さだけに頼っているのが残念。

フツウに楽しめる作品だけど、プロット、クライマックス、落ち、どれもありきたり過ぎて特に印象を残さない。モーガンフリーマンがいい味を出してる、というところくらいか。

好きだけどね、こういうシンプルなドラマ。

好み評価:☆☆☆

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