Log No. 344

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January 19, 2007

ダーウィンの悪夢とフィレオフィッシュ

フーベルト・ザウパー監督作品、「ダーウィンの悪夢」を観た。

アフリカのヴィクトリア湖。かつてそこでは多様な生物が棲む「生態系の宝庫」だった。しかし半世紀ほど前に放流された外来魚ナイルパーチが、他の魚を駆逐していく。それと同時に湖畔では、ナイルパーチの一大漁業産業が発展。加工された魚は、毎日のように飛行機でヨーロッパへ運ばれていく。それは湖畔に住む人々に、大きな影響を与え始める…。-goo映画の解説文より-

darwinsnightmare.jpgこれは衝撃的な映画だ。一生態系の破壊、そして一魚加工産業が引き起こす、貧困、暴力、売春、エイズ、武器密輸といった負の連鎖。これらを半ば物語的に語り明かしていくドキュメンタリー。あらすじをどこかで読んでいけば、実はそれ以上の内容はない映画なのだけど、やはり映像の力はすごい。

印象的なのは、さんざん町の惨状(弓矢で魚の研究所を警護する男、売春によってエイズが蔓延し若くして皆死んでいく村、蛆のわいた魚のアラしか食べることができない近隣住民)を見せたあとに、「ビジネスは上手くいっています(笑顔)」という国外のビジネスマン達の台詞。

気になる点も多かった。やたら、情報が不確かなのだ。「そういううわさを聞いた」「〜〜と言ってるのをテレビで見た」「〜〜と新聞に書かれていた」なんてのをインタビューの結果として流す。観ている側としては、それが正しいのかどうかは分からないけども、それを事実として受け取るしかない。しかし重大な事実にも関わらず、それが正しいのかの検証はこの作品では省略されているために、なんだかもやもやしたものが鑑賞後に残るのだ。おそらく真実に近いものを見せているのだろうけども、この作品を根拠に誰かを糾弾することは難しい。もしかしたらそれを狙ったのかもしれないけど。(告発モノだとしたら危険すぎる内容なのかもしれない、と)


ナイルパーチという魚について少し検索してみた。日本では「白すずき」という名前でスーパーに並ぶらしい。または単に「白身魚」と。マックのフィレオフィッシュなどもこのナイルパーチを多く使っているとか。

よく、ブランドモノの模造品やPCソフトの海賊版、売春などにお金を出すことは、そのまま組織犯罪を資金的に援助することだ、だからそれらを買った人々も同罪だ、という論がある。これは真実だと思う。では、マックでフィレオフィッシュを食べることはどうなのか。スーパーで晩御飯のおかずを買うときに、ちょっと値がはる出所が確かな食品と、そんなに味は変わらないけど安い「白身魚」。僕なら後者を買ってしまいそうだ。そして知らずにアフリカの売春、エイズ蔓延、武器密輸に加担する。そういうことなんだろうか。そういうことなんだと思う。どこかで黒くなったはずの鎖は、僕らの手元に届く頃には再び白く塗られている。

生活の中に、どれだけこのようなことが溢れているんだろうか。「安い」という価値は大抵こういった構造の上に成り立ってる気になってきてしまう。今更なのかも知れないけど、きっと僕らの生活はもうこういう黒い鎖から逃れられないところにいるみたいだ。誰かを食い物にしながら生きる、など自然の法則といえばそれまでだが、それに無自覚ではいたくないなと思う。世界の仕組みとして組み込まれているほどの悪(僕はやはり悪だと思う)のサイズに、立ち向かう術を今は思いつけないのだけど、せめて無自覚ではいたくないと思う。

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In her shoes

inhershoes.jpgキャメロン・ディアズ主演、「In her Shoes」を見た。久々に爽やかな映画を見た。年末になぜか親父と二人で見た映画なのだけど、親父と見ていたがゆえに、どうしても泣くわけにはいかなかったのだけど、これは泣けた。保守的で地味で暗くて堅い仕事についている姉と、奔放で美人だけど男にだらしなく仕事にもつけない妹の成長物語。王道的な人間成長ドラマだけども、いいものはいい。ちょっと内容の割りに冗長過ぎた気もするけども。

この映画、何が良かったって、ディアズの足がやたら長いこと、じゃなくて、主人公二人のおばあちゃん役の人がホント美しいんですよ。調べてみたら大女優だった。こういう風に老いる人って素敵だなぁと思った。

映像もとっても綺麗なので、落ち着く映画が見たい時にはお勧めします。

白夜行

東野圭吾著、「白夜行」を読んだ。

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女はその後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして19年・・・。息詰まる精密な構成と叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!

byakuyakou.jpg一気読み!初東野圭吾だったのだけど、評判どおりの筆力でした。大連から成田へ向かう飛行機で読み始め、帰国してすぐ迎えた週末、ほぼ半年振りの日本の土曜日なのに、昼過ぎまでずーっとこの小説読んでた。読み終わったあとはズシンと重い何かが残る。決して面白い小説ではない。主人公たちの卑劣な犯罪を淡々と描き続けるだけの小説なのに、なぜにこうも悲しくなるのか。とにかく重い何かが、その後何日も残ることになった、威力のある作品でした。

東野作品には、またしばらくしたら何冊か手を出してみようと思っています。

January 03, 2007

2006年ランキングs

去年もやった年間いろんなものランキングs。今年もやってみよう。

2005年のランキングはこちら

2006年に読んだ文芸小説ベスト3。
1.舞城王太郎著、「阿修羅ガール」
2.川島誠著、「800」
3.ウンベルト・エーコ著、「薔薇の名前」

今年最大の収穫は舞城ワールドに出会ったことか。リアルタイムコーヒー企画も、本当に興奮させてくれた。

2006年に読んだエンタメ小説ベスト3。
1.宮部みゆき著、「火車」
2.島本理生著、「ナラタージュ」
3.東野圭吾著、「白夜行」

今年は積極的にエンタメ小説を読んだ年だった。どれも評判の高いものを選んだので、かなり充実したセレクションとなった。3つを選ぶのが大変だったほど。全体的に見ると、ミステリーが多いのはなんでだろう。今まではミステリーというジャンルはあまり好きではなかったのだけど。でもよく書店で売り上げランキングで上位にあったり、書評で推されているものには、なぜかミステリーが多いんだよね。

2006年に読んだノン小説ベスト3。
1.H.ウィリアム・デトマー著、「ゴールドラット博士の論理思考プロセス」
2.スティーブン・コヴィー著、「七つの習慣・最優先事項」
3.渡邊奈々著、「チェンジ・メーカー」

実は1と2はいずれも読了していないんですが、受けたインパクトは大きい。もうちょっと読み込んで身に着けたい。3はちょっとした思い入れもあり、初心を思い起こさせてくれた一冊。

2006年に読んだマンガベスト3。
1.史村 翔、池上 遼一作、「サンクチュアリ」
2.該当作なし
3.該当作なし

サンクチュアリ熱すぎる。もう少し早くこの漫画に出合っていたらそっちの方面に感化されていてもおかしくなかった(笑
でも今年はほとんど漫画読まなかったのでランキング作成不可。

2006年に見た映画ベスト3。
1.SAYURI
2.該当作なし
3.該当作なし

ランキング作成不可。今年もほとんど見ていない。SAYURIは凄く良かった。

2006年に見たドラマベスト3。
1.該当作なし
2.該当作なし
3.該当作なし

24とフレンズ(シーズン6)しか見ていない。よってランキング作成不可。しかしフレンズにははまった。

2006年に聞いた曲ベスト3。
1.該当作なし
2.該当作なし
3.該当作なし

やばい。全然聴いてないや音楽。

2006年にみとれた女優ベスト3。
1.該当者なし
2.該当者なし
3.該当者なし

・・・

2006年によく巡回したBlogベスト3。
1.該当なし
2.該当なし
3.該当なし

俺2006年何やってたんだ?

なんかこのランキングを作成して凹みました・・・
2007年は、もっと仕事以外の活動にも精を出して、文化的に、精神的に豊かな生活を送りたいと思います・・・

October 30, 2006

集団面接会@ハイテクゾーン

週末、大連ハイテクゾーンの人材会社主催のIT人材集団面接会に出てきた。企業側の出展です。

新卒を中心に、若いIT人材が集まる集団面接会で、企業側は300元くらいの出展費を出すと、人材会社のほうでブースをセットアップしてくれる。(二人がけの机一つに、背後にA0くらいのサイズの会社紹介ポスター)

日本語能力2級相当のモノ、という募集条件だったので、大抵日本語で会話できる人は来ない。というわけで僕のアシスタントのシャオに土曜出勤してもらおうと思ったら、「資格の試験があって行けないので、344さん一人で行ってきてください!ハイこれ地図。」と言われて、一人で行ってきました。

場所はハイテクゾーンのLumingビル。一階の大スペースに、数千人の若者が集まっていた。僕はシャオに何度聞いても「紙とペンだけ持ってけば大丈夫ですから!」と言われていたので、紙とペンを片手にブースでボケーっと座っていた。すると徐々に人がブースにやって来る。会社紹介を眺めて、興味があれば履歴書を提出してそのままその場で面接、というスタイル。

3時間くらい座って、20数人と面接した。中国の面接はかなりフランクです。みんな基本的に私服で、スーツ姿の人はホントに稀。たまにジーンズとかジャージの人もいる。共通してるのは、みんな目がキラキラしている。漫画みたいに。

いろんな人がいて楽しかった。
人材A「寮は?社員食堂は?」
僕「無いっす」
人材A、はぁ?という顔をしてそのまま立ち去る。

僕「どんな仕事をしたいと思って今日この会場に来ましたか?」
人材B「商標の事務作業がしたいと思って!(ってうちの会社紹介に書いてある)」
僕「・・・今日はIT人材の面接大会だよね?」
人材B「えぇでも前からやりたかったんです。」

人材C「この仕事以外になんか無いんですか?例えば、僕は明るいので人とたくさん触れ合う仕事がしたいです!」
僕「うーん、うちは事務の会社だから、そういう人材の期待に応えられる環境を用意できる自信が無いなぁ」
人材C、しばらくブースの前で悩む。
人材C「じゃあ他になんか楽しそうな仕事は?」
僕「知財事務なんて今後益々必要とされる人材で楽しいじゃないですか!」
人材C「・・・・じゃあ仕事はいいです。その代わり社長さん、名刺ください。友達になりたいです」

オヤジA「オタクんとこに、応募させたい子がいるんだけど、会社に連れてっても良いかね!」
僕「まずは履歴書をお送りください。検討して連絡します」
オヤジA「そうか!いや凄くいい子なんだがね!じゃあ履歴書持って行くから、直接行っていいかい!いつならいい?!」
僕「じゃあまずはその履歴書をFAXでこの番号まで送っていただくというのはどうでしょう?!」
オヤジA「分かった!送る!友達の息子なんだがね、いい子なんだ。送ったら伺うから住所教えてくれ!ところでアンタなにジン?」
僕「ニホンジンです。住所は数馬広場です。それでは来社をお待ちしております。」


とまぁこんな感じにイロイロ。楽しかったけど一人で対応はやはり疲れる。言いたいことを言えない場面も多いし、今度こそは週末レイジーなシャオを連れて行く!

October 17, 2006

Gmail Hack!!

最近自分のタスク管理能力がまずいことになってるので、ここでしっかりと仕事を処理できる仕組みと環境を用意して仕事に抜けがない男になる。

これまでは主にPCモニター上にToDoを書いたポストイットをぺたぺた貼り付けていって、終わったら捨てる、ということをやっていたが、メールで来る依頼や仕事の処理が結構抜けるということが続いた。僕は純粋に自分宛のメールが日にせいぜい50~60通程度なのでそこまで酷くない状況のはずなんだが・・・

で、今回使うことにしたのは、巷で評判のGTD(Getting Things Done)メソッドと、私見では世界最強メーラー兼タスク管理ツール、Google社のGmail。

以下GTDについてのリンク
ワークスタイル・メモ:GTD・Lifehacks
時間と仕事の整理術『GTD』がカルト的人気

以下Gmailについてのリンク
ITmedia Biz.ID:Gmailに学ぶ-大量のメールに振り回されない基本テクニック

キモとなるのは、Gmailの以下の超画期的機能。
・InboxからArchive化させる構造によって、Inboxを空にしておける設計
・ラベル+フィルターという、従来のフォルダ式とは根本的に発想が違うメール分類
・アライアスメールアドレスで、無限メールアドレス+それを利用したフィルターによる管理機能
・ウェブメーラーでありながら、複数のメールアドレスを管理できたり、Gmail以外のメールアドレスとしての送信・返信設定も可能」
・ウェブメーラーでありながらRSSリーダーとしても機能
・AJAXによる直感的インターフェース
・圧倒的に強力なスパムフィルター
・スターマークによる、優先処理案件のフィルタリング←GTDに向いている
・様々なログイン方法を提供している。AUのWINなどの大容量通信ができる人はガンガン携帯でGmail使ったらいいと思う。GMailログインURLまとめ:http://gmail.1o4.jp/login.html
・GoogleTalkでの会話履歴もGmail上に集約され、メールと同じように管理できる。

で、今回このGTDをGmail上で実践するために、下記要領で環境を整えた。ポイントはFirefox。学生の頃はFirefoxのファンだったが、ここ1年ほどはずっと仕事の関係でSleipnirとIEのみでやってきた。Gmail活用に便利とあらば、ブラウザというよりはメーラーアプリとして、Firefoxに復活願おう。

1.現在使用中の5つのメールアドレスを全てGmailに転送設定し、集約。
2.value domainで運用している独自ドメインメールアドレスで、catchall設定+Gmailフィルター機能=無限メールアドレス (仕事でGmailアドレスを使うのは何かと問題があるため、独自ドメインでも色々できるのは便利)
参考サイト:http://kazamidori.net/kaoru/gmail/
3.Gmailのウェブスペースをデスクトップ上ドライブの感覚で利用できるGdriveを設定。
参考サイト:http://shiryog.xrea.jp/archives/2005/04/04_2330.php
4.Gmail×Firefox=最強らしい。
参考サイト:http://gmail.1o4.jp/firefox.html
5.Firefoxをダウンロードしたらまず行う設定
参考サイト:http://audiofan.net/archives/2005/11/firefox_ver15.php
6.GmailでGTDを行うのに最適なプラグイン、GTDGmailを設定。
参考サイト:http://www.gtdgmail.com/
7.Greasemonkeyを中心に、その他便利プラグインでがりがり拡張。
参考サイト:http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050518302.html
8.最後は同じ環境をUSBメモリ上に持たせれば、どこでも同じように仕事ができる。
参考サイト:http://www.forest.impress.co.jp/article/2005/12/12/portablefirefox.html
9.おまけで「これ、Gmail!」ブックマークレットで、情報収集とスクラッピングも管理。
参考サイト:http://gmail.1o4.jp/this.html

こういう仕事環境は慣れてしまうと、それを微妙に拡張していく、ということはあまりしないもんなので、最初にとことん環境整備に力を入れることが肝要。惜しむらくはネットの中国のネット速度が遅いためにサクサク超快適、とはいかないところか。それでもシンプルなHTMLによる設計は、他者のウェブメーラーよりも数段軽いのだけど。ただ、ウェブメーラーであるがゆえに、どんなサイズのファイルも受け取るのに時間的差はないというのが、逆にネットが細い中国では重宝する特徴。

今日一日この設定でやってみたが、やはり相当管理しやすい。タスク処理の質も上がるようだったらまた報告します。

海辺のカフカ

村上春樹著、「海辺のカフカ」を読んだ。

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。 -「BOOK」データベースより-」

kafkaontheshore.jpg村上春樹という作家はあまり好きではないのだけど、彼の作品はたまにツボにはまります。今回の海辺のカフカも、よかった。彼のほかの作品と共通するテーマがいくつもあったように思うけども、この作品だけでえらく完成された印象を受ける。登場人物の会話が異様に記号的なのはいつものことで、さらに物語とは関係のない人物や描写というのも全くなくて、リアリティの欠片もないのだけど、メディアとしての小説というのはこういうことか、という感じ。

章毎に三人称の過去形で語られるパートと、一人称の現在進行形でかかれるパートに分かれていて、一人称現在進行形パートでは途中から二人称現在進行形、なんてのも混ざってくる。読んでて不思議な気分になる、不思議な小説です。

しかしこの現在進行形で書く、というスタイル、最近流行りなんだろうか。舞城小説でもよく使われているし、伊坂小説でもたまに使われていた。海辺のカフカではカフカ少年の章全ての文章がそうだったので、読みにくいことこの上なかった・・・

でも全体的にはヒット。暇ーな時に読むのをお勧めできる一冊です。

October 04, 2006

初めてクビを切った

今日、会社を始めて1年半にしてはじめて、従業員を解雇した。

一ヶ月前にすでに解雇を決断していたが、本人には熱意があったので「これから一ヶ月以内に成果が出せなかったら辞めてもらう」という話をした。そして今日がその約束の期日だった。

結果として、彼は要求を満たせるような内容の仕事が全然できなかったので、約束どおり解雇を決定した。採用の目的を果たせない人材、それどころか周りの業務を妨害するほどのミス率を一人で叩き出すほどの人間を、継続して抱えていく余裕はうちの様な弱小ベンチャーには無いのです。

この1週間ずっとそのことが頭にあって、あぁとうとう言わないといけないな、と嫌な気分で面談に臨んだ。

その彼は、最初は自分ができなかった理由を色々と述べていたが、あるタイミングからぱったりと弁明をやめ、凄い目つきで給料の話、保険の話、交通費の話、それらと絡めて法律だ弁護士だ裁判所だといろいろと言い始めた。こちらは完全に法律に則ってことを運んでいたのでまったくその点は問題にならなかったが、そうとみるや今度はその他の社員による陰謀で力が出せなかった、とか、日本企業は出る杭が打たれる、とか、この会社はホントにどうしもなく酷いところだから、誰を採用しても中をしばらくみたら誰もが辞めたくなるだろう、とか喚き始めた。途中、自分の資料を持って出て行きますと作業スペースに戻ろうとしたが、こういう豹変もあろうかと彼を会議室に呼んだ時点で彼のPCのパスワードを変えさせてあった。

その後もしばらく全社員は三好さんを騙しているんですよとか言いながら中国社会についてのよくある暗い企業の裏話を説教していた。気が済むまで話させていたら、しまいに「三好さんだけは信頼できます」とかおだてはじめて、最後はとても塩らしくなっていった。一生懸命やっているスタッフを侮辱されて怒りで文字通り震えていたが、別れ際は会社の印象を決定づける大切な瞬間、堪えて笑顔で握手して送り出した。彼が見えなくまるまで見送ろうとしてたら、30メートルほど去っていってから振り返って走って戻ってきて「先月交通費が30元少なかったのでちゃんと振り込んでおいてください」とだけ言ってまた去っていった。

解雇する前は、せっかく雇って、これまで一緒に楽しく仕事をやってきた仲間を、合理性の名の下に切らなくてはならないことで嫌な気分だった。解雇した後は、その人材の豹変っぷりと、その人材がそんなに暗い思いを溜め込んでいたことに気づけていなかったことに本当に暗い気持ちになった。

会社は、社員の生活を守るために頑張らなくてはいけない。今日彼と別れたことで、残った社員の仕事環境と生活がより堅実なものとなったと考えよう。彼が言っていたように本当に酷いところで誰もが辞めたいと、そんな風に思われる余地がないような、そんな会社にして行こう。

あーこんな経験ができて僕は実にラッキーです。

September 03, 2006

最後の息子

吉田修一著、「最後の息子」を読んだ。

新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。

lastson.jpg
表題作は変わった作品だと思ったけども特に気に入るということはなくて、破片にしても同じような感想。この人の文章は軽くて好きなんだけども、この表題作は軽さのせいかはわからないが心に残らなかった。結構どうでもいい感じ。

ただ、「Water」という作品は素晴らしかった。ストレートなエンターテイメントで、爽やかな青春小説のお手本、と言っても良い位完璧な出来だと思った。同時にそれは誰でもかけそう、ということでもあるので、この作品を持ってこの作家が良いとは言いたくないが、やはりこんなにも心に響く情景を描いてくれたことには感謝しないといけない。内容は高校生4人組の水泳大会に向けた情熱と日常をリズミカルに描いていく。全国にいる高校生のなかでも最高級に幸福な部類に入る子達の話だけども、誰しもこんな時間は一度はあったんじゃないかとも思う。青春なんて言葉は言うのも恥ずかしいけど、たしかに青春って時期はあるんだと強制的に認識させられる力があった。久々に読後の余韻にどっぷり浸らせてもらえた作品だった。

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「フラれたとか?」
とおじさんが、声をかけてきた。ボクは返事もしないで運転席の後ろの席に座った。真っ暗な県道にぽつんと光るバスの中で、じっと自分の手を眺めていた。運転席に戻ったおじさんが、エンジンをかけながら、
「坊主、今から十年後にお前が戻りたくなる場所は、きっとこのバスの中ぞ! ようく見回して覚えておけ。坊主たちは今、将来戻りたくなる場所におるとぞ」
と訳の分からぬことを言っていた。
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August 18, 2006

黄昏の岸、暁の天

小野不由美著、「黄昏の岸、暁の天(そら)」を読んだ。

登極から半年、疾風の勢いで戴国を整える泰王驍宗は、反乱鎮圧に赴き、未だ戻らず。そして、弑逆の知らせに衝撃を受けた台輔泰麒は、忽然と姿を消した!虚海のなかに孤立し、冬には極寒の地となる戴はいま、王と麒麟を失くし、災厄と妖魔が蹂躙する処。人は身も心も凍てついていく。もはや、自らを救うことも叶わぬ国と民―。将軍李斎は景王陽子に会うため、天を翔る!待望のシリーズ、満を持して登場。-「BOOK」データベースより

tasogarenokishi.jpg
NHKでアニメ化されているものを見て世界観に惹かれ、何人もの読書仲間に原作を読むことを勧められてようやく手にとった一冊。ファンタジーが今年のマイブームとなったきっかけでもあります。

東洋中世風ファンタジー、十二国記。現代の東京からこの異世界に迷い込んだ女子高生が、その世界の不思議な条理のために、王にされてしまうというお話のシリーズ。よく練られた世界観の設定があって、それを軸に様々な物語が構築されていく。所謂設定モノ、というやつだろう。

そして所謂ティーン向け小説。難しい言葉沢山出てくるけども、会話のテンポや展開なんかはマンガ的です。マンガが大好きな僕としては、こういうジャンルも割りとイケるようです。

・国の数は十二。
・それぞれの国には一匹ずつ麒麟が産まれ、その麒麟が天の意思を代行して王を選ぶ。
・王に選ばれた人間は永遠の寿命を得るが、王が道を失う(悪政を敷く)と麒麟が病気になり、麒麟が死ぬと王も死ぬ。
・王を失った国は天変地異と魔物で溢れ、国土は荒れる。
・次の麒麟が生まれ、その麒麟が王を見つけるまでは、誰も王として立つことはできない。
・十二の国は互いの国を侵攻してはならず、国際戦争は起こらない。
・王が善く国を治める限り、その国の繁栄は何百年でも続く。
・人は、それぞれの町に一本ずつ生えている特別な木に実る、木の実から産まれる。
・人間の寿命は、普通の世界と同じ限られたものだが、政府の高官になったり、仙人に仕える身になると、「仙籍」と呼ばれる戸籍に登録され、やはり不老となる。
・この「仙籍」は戸籍のようなものなので、除籍すれば普通の人間に戻る。

などなど、細かい設定には列挙の暇がない。これだけ細かい設定を世界に与えて、十二の国に様々な事情を持たせてあるのだから、いくらでも物語が書けそうだ。だけども、著者の小野不由美は、そのごく一部の物語を書いてしまって力尽きたかのように、シリーズを物語の途中で止めてしまっているようだ。この世界観はたまらなく魅力的なだけに本当に惜しい。

この「黄昏の岸、暁の天」も、壮大な物語のワンシーンでしかないのだが、この物語で触れられた複線も回収される見通しが立っていなさそうだ。物語としては完結しているのだけども、やはりここで語られていない真実がどうしても気になってしまうのが読者の心情というものでしょう・・・

本作単体だけで評価してもあまり意味ないとは思うけど、このタイトルだけに限って言えば、あまり優れた一作とは思えなかった。何しろ導入から物語後半まで、ほとんど話が進まない。主人公は同じような葛藤と回想を繰り返すだけで、事態は終盤まで何も進展しない。重要人物であるはずの麒麟も、その麒麟の物語だけで別のタイトルで描かれているからか、本作ではほとんど語られず、この一作を読んだだけではまず麒麟さんに感情移入ができない。そしてとにかく盛り上がりどころが無かった。いくつかあったとすれば、たまに目に付く登場人物によるながーい「お説教」くらい。あれを小気味いい啖呵と捉えるか説教と捉えるかが感性の別れ目なんだろうか・・・。物語や話の構成はよーく練られているんだけども、どうにも人間同士のやり取り、つまりドラマ部分に幼稚な雰囲気を感じてしまうのが気になって仕方なかった。冒頭にも書いたけど、「所謂ティーン向け」ということをやたら意識させられる小説だった。

なんか凄くけなしているような文章になってしまったけど、全体のお話としてはとても好きなんです、十二国記。いずれにしろやっぱりこの作品は「十二国記」という大きな作品の一章として楽しむべきだと思いました。だとしたらやっぱりこの「続き」もどうしても必要だと思うんだけどね・・・

August 07, 2006

火車

宮部みゆき著、「火車」を読んだ。

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

kasha.jpg一気読み!!!久々に寝る時間を忘れるほど夢中になって読み進めた。読了後は思わず天を見上げること数分。読み終わってすることが無くなったので、それまで2時間居座ったスタバを出てからも、胸を締め付ける感じがしばらく消えなかった。あのラストは読者を驚かせるけども、思えばあのラストだからこそこんなにも余韻が残るんだろうな。

ミステリーだから当然「犯人役」がいるんだけど、この人物がまた・・・感動や悲しみではなくて、同情で泣けてきた。巻末の解説で、解説者がごく自然に「ヒロイン」という言葉を使っていたけど、犯人役こそがまさにヒロインなのでした。

あとはネタばれ感想を追記に。

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August 06, 2006

閉じ込められた

部屋に、閉じ込められました。現在午前2時40分。

国際ビール祭り行って、たにひろばの部屋でかまいたち2やって帰ってきて、歯磨いて寝るぞーっと思って寝室に入ってドアを閉じたら、いつもとは違う「カチ」っていう音がしたかと思うと、もうそのドアは開かなくなっていた。

ドアノブをひねっても、何も起こらない。ドアは、開かない。

ドアノブを捻ると出たりひっこんだりする突起あるでしょ、あれが、全くドアノブと連動しなくなってる。しっかりドアの枠に食い込んだまま、ドアノブを捻っても空しく空回り。

さて、どうしよう。ロックドイン、リアルタイム進行中です。

寝室内にはドライバーとかなかったと思うし、どうやってこのドアノブをなんとかしようか。

雨漏りや隙間風のあるボロいアパートですが、こんなことは初めてだ。

今は凄く眠いのでとりあえず今日はこのまま寝て、明日いろいろ頑張ってみる。起きたらまずドアノブの構造をネットで調べてみよう。


あー腹減ってきたな・・・空腹で気力無くなる前になんとかしなくては。

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