Cinema No. 344

June 2004

北京バイオリン

陳凱歌(チェンカイコ−)監督の北京バイオリンを観た。

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バイオリンの天才である少年と、その少年の成功に自らの夢を重ねる父親の物語。
よくある題材でよくある展開をする映画だけど、それを本当に綺麗にドラマとして纏め上げた、傑作。映像も綺麗で、涙を流さずには見ていられない感動作でした。

主題は父と子の絆、お金より大事なモノ、というところだろうか。
どんなに辛くても明るい父と、些細なことで揺れる少年の心の描写が絶妙。
劇中何度となくお金のやりとりがスクリーンに映るが、貧しい父親は決して受け取らない。無邪気な春少年はもらえるものは受け取ってしまうけど。

途中、陳凱歌監督自ら扮するユィ教授が弟子に「金のための演奏はするな」と叱り付けるシーンがあるが、これなんかは彼の前作品で「キリングミ−ソフトリー」という話題性だけは十分だが内容の薄い三流サスペンスハリウッド映画を撮ってしまった陳凱歌が自分自身に言ってるのでは、と思ってしまった。(映像はあの作品もとても綺麗だったけどね)

音楽映画としても「海の上のピアニスト」に匹敵するくらい気に入った。
主人公の奏でるバイオリンもとても綺麗で、主にチャイコフスキーなどのクラシックの名曲が披露されるわけだけども、中にはテレサテンの「月亮代表我的心」なんかも出てきて楽しませてくれる。

ちなみに原題は「和イ尓在一起」(あなたと一緒にいる、の意)
英題は「Together」(そのまんま。どちらもなんとなく作品の雰囲気を掴んでいる)

で、邦題が「北京バイオリン」って、なにそれって感じしない?すっごく分かり易いんだけどさ。

好み評価:☆☆☆☆1/2

Balzac Et La Petite Tailleuse Chinoise

フランス映画、「小さな中国のお針子」を観た。原題:Balzac Et La Petite Tailleuse Chinoise

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監督も中国人なら、メインキャストも皆中国人で、舞台も中国だけど、雰囲気はもう完全にフランス映画。ダイ・シージェ監督の自伝的小説が原作になっているらしく、その原作からフランス語で書かれているらしい。ダイ・シージェは長いことフランスで活動している。

映画の舞台は中国の山村。文革の頃に、反革命分子の子ということで「再教育」のため山村に送り込まれた2人の青年が、そこで出会う「お針子」という村で一番美しい娘と恋に落ちるという話。ストーリーは、恋愛を語るものではなく、2人がいかにして無知な田舎の娘を禁じられた西洋文学によって目覚めさせるかということに奔走する様や、村での生活、村人との関わりをコミカルに描く。バイオリンの演奏を披露するとき、モーツァルトのソナタを奏でながら「毛沢東を想って、という曲です」なんていう具合に。

この作品で印象的なのは、ほぼ全てのシーンに登場する中国の山村の絶景と、文学に対する人々の憧れだ。設定では、この映画の舞台は、今はもう三峡ダムのために沈んでしまったエリア。三峡下りといえば、中国で観られる最も美しい景色の一つとして知られる。そんな景色の中でこのほろ苦くも綺麗な物語が進むのだから、ただボーっと眺めているだけでも飽きない。全編を通して流れるバイオリンや胡弓の調べがこの景色と相俟って本当に心地がいい。

もう一つは人々がいかに文学というモノに飢えているか、この時代の人々を動かす力に驚かされた。ここでは小説が、中世ヨーロッパの胡椒さながら、この世の秘宝のように扱われている。そして、一冊のバルザックが3人の人生を変えてしまう。知への欲求と、本の力というものを考えさせられる。

自分にとって大切な本を改めて掘り起こしてみようかな。

好み評価:☆☆☆1/2

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