8月の26日から9月の5日まで、Mの所属する空手部の夏合宿があった。
Mは30日から合流した。
今年の合宿地は越後湯沢。空手部が訪れた10日間は半分くらいが雨で、ずっと涼しかった。標高が高いからなのか、雲が常に手に届きそうな高さにあった。
合宿で使用した体育館の前の風景。
合宿には、塾高(慶應高校)と志木高も参加していた。
合宿中の簡単はスケジュールは、
朝6時に起床し、6時25分から道場にて部歌の斉唱と、各自その日の目標の発表。
7時半の朝食まで寝る。
8時前に朝食をとり終わり、午前稽古まで寝る。
8時40分頃に道場に行き、9時からの午前稽古に備える。
午前稽古は120分。主に空手稽古。
11時半の昼食を食べ、14時からの2部稽古に備えて寝る。
2部稽古は90分。主に体力、筋力トレーニング。
2部稽古が終わると、栄養補給におにぎりを皆で食べる。
16時半から3部稽古60分。主に組み手。
18時半か19時からの夕食まで寝る。
夕食後はビデオ研究などのミーティング。
その後は各自風呂に行くなり自由。
四年生は翌日の稽古内容を詰めるミーティングを一時間ほど行い、
22時半消灯。
途中「寝る」がやたらと入るがこれをしないと次の稽古までに体力が回復しない。
(もっとも回復するとしてもたかがしれているが)
休憩時間中の四年生部屋。
Mは30日に合宿所に到着すると
早速午後稽古に向かった。道場ではすでに部員達が準備運動をしていた。
塾高空手部の顧問の先生である、林先生もいらしていた。林先生はMの高校の頃の
数学の担当教師であり、当時は剣道部の顧問をしていた。しかし、その先生が
顧問としてただ合宿を引率し稽古を見学するのではなく、空手を習い高校生と
一緒に稽古をしている姿は何か微笑ましいものがある。あの数学教師が空手を・・
という感じである。
塾高のほうは事情により合宿5日目で帰ることになっていたので、その日記念撮影を
した。前列が塾高生。前列左から二番目が林先生。一番左が斉藤塾高監督。
中腰になっている列の右三人が志木高生。志木高には空手部がなく、彼らは同好生
でありながらも大学空手部の練習に参加し、立派についてきている。
合宿の中日は一日オフとなる。しかし夏の越後湯沢にはなにもなかった。
しかも雨が降った。それでも何もしないのはあまりにももったいないため、
雨のなか「フィッシングパーク」という釣堀に行った。
虹鱒が泳いでいるのがところどころ見えるのが、まったく釣れない。
川の横にはこんな碑もあった。
「魚魂供養塔」と書いてある。Mも一応手を合わせておいた。
終了間際い3年の蛭Kが釣っただけで、成果はひどいものだった。しかし、竿を返しに
いくと、人数分の虹鱒をくれたようだった。2,3年でその場で塩焼きにして頂いたらしい。
中日が終わると、あとは最終日までひたすら稽古。
腕を負傷しているため、志木高生に軽く(?)スパーリングの稽古をつける主将H薗。
この直後、H薗は同じくスパーリングの稽古をつけた別の志木高生の歯を折った。
最終日は恒例になっている下級生の「しごき」である。年に二回ある根性練の一つで、
もう一つは闇鍋の日に行われる通称「闇鍋練」だ。
「限界を超える」をコンセプトに時間内ひたすら筋肉を焼き続ける。
この日の主将H薗の秘密の目標:「死人を出さないこと」
この日の副将O部の秘密の目標:「生かさず殺さず」
スポーツ科学の観点から見れば無意味で効率の悪い単なるオーバートレーニングに
なるわけだが、空手部では意味があると思ってやっている。
普通に生きていれば、たとえスポーツを一生懸命やっているひとでも体験し得ない
ほどの肉体の限界を経験し、それを精神力のみで超えることで、一皮むけると言うか、
それを体験した後でしか見れない景色というものがある。人が大抵辛くて「もう限界、
無理」ということが、精神的にあきらめているだけで無理ではない、ということが
わかる。グリコーゲンが出尽くすほど筋肉を酷使したあとにそれと同じことを2倍、
3倍とできてしまう。これに耐えられて他のなにかが耐えられないわけがない、と
思えるようになる。
しかしこれほどまでに追い込めるのも、先輩からの怒号によるプレッシャーと、
少しでも楽をしようものなら、たとえばスクワットの腰の落とし具合が浅かったり
したら、周り全員で連帯責任をとり追加でもう100回、ということが際限なく起こる
というプレッシャーがあるからだ。こういう追い込みは上級生になるとなかなか
受けられない。だから、下級生のうちにこういうしごきを受けることは大切だと
思うのだ。
通常の稽古では15分か20分おきにレストが120秒入る。この時は2時間で120秒。
普段ならレストにはいる他のタイミングでは、代わりにスクワットや腕立てが入る。
午前のしごきが終了し、昼飯へ。
午後もこのペースでやる、と後輩には通達してあったのだが、実はやらないんじゃ
ないか、という一縷の望みを下級生一同捨てきれないようだった。
しかし、主将の「14時から胴着着て道場に集合」と大真面目な顔で言われ、全員
がっくり肩を落としていた。(主将は稽古中冗談を言うタイプではない)
昼ごはん中も「下級生の腰の落とし具合が浅いのと、突きがまだ弱いな、回数を
増やすか」などという会話を卓上で交わし、プレッシャーをかける。
しかしこれは四年生による「ドッキリ」なのであった。
時間になり、胴着のままランニングに入った。ものすごいペースで走りだす主将。
しかし10分もしないうちに到着する先はきれいな渓流だった。感がいい奴はそこで
もう気づいたらしかった。主将が「川に向かって、礼!」と叫ぶ。この一言で
もうエグ練はない、と誰もが確信し、雰囲気がほぐれた。そして川に向かって
大声で叫びながら、突いて、蹴った。可笑しくてしょうがなかった。
そして、再度川に礼をし、主将の提案で、一人ずつ今年の抱負を叫びながら
川に飛び込むことにした。豪雨の直後だったので、流れは見るからに速い。
主将が試しに飛び込んでみると、15メートルくらい流されて這い上がってきたが、
予想以上に流されるようだった。しかし楽しそうなので続行した。
そして、H薗が、「これで合宿を終わります」と宣言した。
恒例の、無礼講がはじまった。合宿終了と同時に一年生が四年生にビールをかけまくり、
鬱憤を晴らす、というものだ。しかし今年はビールが買えなったのか、
なぜか「ドクターペッパー」をかけられた。
今年は志木高生も加わり、体中たっぷりドクターペッパーまみれになった。
無礼講なのに、H薗に痛恨の反撃を食らう志木高主将のI田。
無礼講も落ち着き、みな汗と川の水とドクターペッパーで汚れた体を流しに
温泉へと向かった。この日は空手部のおごり。みんなを労う。
露天風呂ではもちろん全裸の奉納演武を披露してもらった。
こうして合宿は無事終了した。9月は多くの練習試合、10月に入れば公式試合ラッシュ。
合宿が終わって、これからが本番という感じだ。これだけの稽古をしている、
結果に現れるのが楽しみだ。
この記事に対するコメント