Log No. 344

Biblio Log

January 19, 2007

白夜行

東野圭吾著、「白夜行」を読んだ。

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女はその後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして19年・・・。息詰まる精密な構成と叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!

byakuyakou.jpg一気読み!初東野圭吾だったのだけど、評判どおりの筆力でした。大連から成田へ向かう飛行機で読み始め、帰国してすぐ迎えた週末、ほぼ半年振りの日本の土曜日なのに、昼過ぎまでずーっとこの小説読んでた。読み終わったあとはズシンと重い何かが残る。決して面白い小説ではない。主人公たちの卑劣な犯罪を淡々と描き続けるだけの小説なのに、なぜにこうも悲しくなるのか。とにかく重い何かが、その後何日も残ることになった、威力のある作品でした。

東野作品には、またしばらくしたら何冊か手を出してみようと思っています。

October 17, 2006

海辺のカフカ

村上春樹著、「海辺のカフカ」を読んだ。

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。 -「BOOK」データベースより-」

kafkaontheshore.jpg村上春樹という作家はあまり好きではないのだけど、彼の作品はたまにツボにはまります。今回の海辺のカフカも、よかった。彼のほかの作品と共通するテーマがいくつもあったように思うけども、この作品だけでえらく完成された印象を受ける。登場人物の会話が異様に記号的なのはいつものことで、さらに物語とは関係のない人物や描写というのも全くなくて、リアリティの欠片もないのだけど、メディアとしての小説というのはこういうことか、という感じ。

章毎に三人称の過去形で語られるパートと、一人称の現在進行形でかかれるパートに分かれていて、一人称現在進行形パートでは途中から二人称現在進行形、なんてのも混ざってくる。読んでて不思議な気分になる、不思議な小説です。

しかしこの現在進行形で書く、というスタイル、最近流行りなんだろうか。舞城小説でもよく使われているし、伊坂小説でもたまに使われていた。海辺のカフカではカフカ少年の章全ての文章がそうだったので、読みにくいことこの上なかった・・・

でも全体的にはヒット。暇ーな時に読むのをお勧めできる一冊です。

September 03, 2006

最後の息子

吉田修一著、「最後の息子」を読んだ。

新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。

lastson.jpg
表題作は変わった作品だと思ったけども特に気に入るということはなくて、破片にしても同じような感想。この人の文章は軽くて好きなんだけども、この表題作は軽さのせいかはわからないが心に残らなかった。結構どうでもいい感じ。

ただ、「Water」という作品は素晴らしかった。ストレートなエンターテイメントで、爽やかな青春小説のお手本、と言っても良い位完璧な出来だと思った。同時にそれは誰でもかけそう、ということでもあるので、この作品を持ってこの作家が良いとは言いたくないが、やはりこんなにも心に響く情景を描いてくれたことには感謝しないといけない。内容は高校生4人組の水泳大会に向けた情熱と日常をリズミカルに描いていく。全国にいる高校生のなかでも最高級に幸福な部類に入る子達の話だけども、誰しもこんな時間は一度はあったんじゃないかとも思う。青春なんて言葉は言うのも恥ずかしいけど、たしかに青春って時期はあるんだと強制的に認識させられる力があった。久々に読後の余韻にどっぷり浸らせてもらえた作品だった。

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「フラれたとか?」
とおじさんが、声をかけてきた。ボクは返事もしないで運転席の後ろの席に座った。真っ暗な県道にぽつんと光るバスの中で、じっと自分の手を眺めていた。運転席に戻ったおじさんが、エンジンをかけながら、
「坊主、今から十年後にお前が戻りたくなる場所は、きっとこのバスの中ぞ! ようく見回して覚えておけ。坊主たちは今、将来戻りたくなる場所におるとぞ」
と訳の分からぬことを言っていた。
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August 18, 2006

黄昏の岸、暁の天

小野不由美著、「黄昏の岸、暁の天(そら)」を読んだ。

登極から半年、疾風の勢いで戴国を整える泰王驍宗は、反乱鎮圧に赴き、未だ戻らず。そして、弑逆の知らせに衝撃を受けた台輔泰麒は、忽然と姿を消した!虚海のなかに孤立し、冬には極寒の地となる戴はいま、王と麒麟を失くし、災厄と妖魔が蹂躙する処。人は身も心も凍てついていく。もはや、自らを救うことも叶わぬ国と民―。将軍李斎は景王陽子に会うため、天を翔る!待望のシリーズ、満を持して登場。-「BOOK」データベースより

tasogarenokishi.jpg
NHKでアニメ化されているものを見て世界観に惹かれ、何人もの読書仲間に原作を読むことを勧められてようやく手にとった一冊。ファンタジーが今年のマイブームとなったきっかけでもあります。

東洋中世風ファンタジー、十二国記。現代の東京からこの異世界に迷い込んだ女子高生が、その世界の不思議な条理のために、王にされてしまうというお話のシリーズ。よく練られた世界観の設定があって、それを軸に様々な物語が構築されていく。所謂設定モノ、というやつだろう。

そして所謂ティーン向け小説。難しい言葉沢山出てくるけども、会話のテンポや展開なんかはマンガ的です。マンガが大好きな僕としては、こういうジャンルも割りとイケるようです。

・国の数は十二。
・それぞれの国には一匹ずつ麒麟が産まれ、その麒麟が天の意思を代行して王を選ぶ。
・王に選ばれた人間は永遠の寿命を得るが、王が道を失う(悪政を敷く)と麒麟が病気になり、麒麟が死ぬと王も死ぬ。
・王を失った国は天変地異と魔物で溢れ、国土は荒れる。
・次の麒麟が生まれ、その麒麟が王を見つけるまでは、誰も王として立つことはできない。
・十二の国は互いの国を侵攻してはならず、国際戦争は起こらない。
・王が善く国を治める限り、その国の繁栄は何百年でも続く。
・人は、それぞれの町に一本ずつ生えている特別な木に実る、木の実から産まれる。
・人間の寿命は、普通の世界と同じ限られたものだが、政府の高官になったり、仙人に仕える身になると、「仙籍」と呼ばれる戸籍に登録され、やはり不老となる。
・この「仙籍」は戸籍のようなものなので、除籍すれば普通の人間に戻る。

などなど、細かい設定には列挙の暇がない。これだけ細かい設定を世界に与えて、十二の国に様々な事情を持たせてあるのだから、いくらでも物語が書けそうだ。だけども、著者の小野不由美は、そのごく一部の物語を書いてしまって力尽きたかのように、シリーズを物語の途中で止めてしまっているようだ。この世界観はたまらなく魅力的なだけに本当に惜しい。

この「黄昏の岸、暁の天」も、壮大な物語のワンシーンでしかないのだが、この物語で触れられた複線も回収される見通しが立っていなさそうだ。物語としては完結しているのだけども、やはりここで語られていない真実がどうしても気になってしまうのが読者の心情というものでしょう・・・

本作単体だけで評価してもあまり意味ないとは思うけど、このタイトルだけに限って言えば、あまり優れた一作とは思えなかった。何しろ導入から物語後半まで、ほとんど話が進まない。主人公は同じような葛藤と回想を繰り返すだけで、事態は終盤まで何も進展しない。重要人物であるはずの麒麟も、その麒麟の物語だけで別のタイトルで描かれているからか、本作ではほとんど語られず、この一作を読んだだけではまず麒麟さんに感情移入ができない。そしてとにかく盛り上がりどころが無かった。いくつかあったとすれば、たまに目に付く登場人物によるながーい「お説教」くらい。あれを小気味いい啖呵と捉えるか説教と捉えるかが感性の別れ目なんだろうか・・・。物語や話の構成はよーく練られているんだけども、どうにも人間同士のやり取り、つまりドラマ部分に幼稚な雰囲気を感じてしまうのが気になって仕方なかった。冒頭にも書いたけど、「所謂ティーン向け」ということをやたら意識させられる小説だった。

なんか凄くけなしているような文章になってしまったけど、全体のお話としてはとても好きなんです、十二国記。いずれにしろやっぱりこの作品は「十二国記」という大きな作品の一章として楽しむべきだと思いました。だとしたらやっぱりこの「続き」もどうしても必要だと思うんだけどね・・・

August 07, 2006

火車

宮部みゆき著、「火車」を読んだ。

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

kasha.jpg一気読み!!!久々に寝る時間を忘れるほど夢中になって読み進めた。読了後は思わず天を見上げること数分。読み終わってすることが無くなったので、それまで2時間居座ったスタバを出てからも、胸を締め付ける感じがしばらく消えなかった。あのラストは読者を驚かせるけども、思えばあのラストだからこそこんなにも余韻が残るんだろうな。

ミステリーだから当然「犯人役」がいるんだけど、この人物がまた・・・感動や悲しみではなくて、同情で泣けてきた。巻末の解説で、解説者がごく自然に「ヒロイン」という言葉を使っていたけど、犯人役こそがまさにヒロインなのでした。

あとはネタばれ感想を追記に。

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August 05, 2006

薔薇の名前

ウンベルト・エーコ著、「薔薇の名前」を読んだ。

中世、異端、「ヨハネの黙示録」、暗号、アリストテレース、博物誌、記号論、ミステリ…そして何より、読書のあらゆる楽しみが、ここにはある。全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書。伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。-「BOOK」データベースより

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ようやく読み終えた、大作「薔薇の名前」。ウンベルト・エーコと言えば記号論の大家。僕自身は、文学専攻でもないのに何故か履修していた記号論の講義で散々引用されていて知った。文学部の友人に言わせると、般教でも名前が出てくるくらい有名な学者とか。で、その学者が小説を書いていて、しかもそれが大変な傑作だと聞いた時からずっと読みたいと思っていた。イタリアやフランスで最高の文学賞を取ったとか、全世界で1000万部以上売れてるとか、最高のエンターテイメントにして芸術、とかあらゆる書評でベタ褒めされていた。上下巻で4000円と学生にはなかなか手を出しにくい小説だったが正月に古本屋で状態の良いのを買えた(それでも2500円したけど)。そして、最近まで積読本の山に埋もれていて、今日ようやく読み終えた。

結果は、確かに凄かった。凄かった、が・・・巻末の訳者あとがきや、読書家の書評などを読んでみて、自分が面白さの10分の1も体験できていないように思えてショックを受けた。この小説、ストーリーの筋書きそのものもミステリーとして非常に凝っていて面白い。物語の背景であり随所で問題になる当時のキリスト教世界内の軋轢や当時の人々の宗教観などが細かくて興味深い。1300年代を舞台に設定している時点で読書経験の浅い僕には新鮮だったのだけど。でも、著者はストーリーは単なる道具として利用しながら、この作品を通して色々面白いことをやってるみたいなんだけど、それが部分的にしか分からなかった。

例えば「書物の中の書物」というキーワードが出てきた時も、ボルヘスの「伝奇集」(未読)を思い浮かべたが、やはり読んでおいたほうが良かった。他にも、ダンテの「神曲」(これまた未だに読んでない・・)を初めとするその他のヨーロッパ文学の必読書のようなものを読んでいると、この辺のしかけは気付きやすかったんだと思う。この作品に触れるのが、どうも早過ぎたようだった。あと500冊くらい本を読んでからこの本に辿り着きたかった。問題は、僕は訳者に作品の味を損ねられるのが嫌で、翻訳モノを読むのを敬遠するきらいがあるから、海外文学をあまり読んでこなかったという点。それがこんな形に裏目に出るとは・・・原著で読むとしても、せいぜい英語の作品しか読めないわけだけど、ヨーロッパの偉大な作品の多くは本作も含めて英語ではない。うーん、ヨーロッパ言語を自在に読めるようになってみたいと初めて思った・・・名訳!というのがあったら是非お勧めを教えて欲しいです。

今回の件で、何故自分は日本に生まれなかったのかと泣いて悔しがるというアメリカのジャパニメーションオタクの人々の気持ちが少し分かった気がする。

とにかく20年後くらいに読み返してみたいと思わされた作品。読書歴に自信のある方、もしくは文学の構造分析などが好きな人にはお勧め!!

August 02, 2006

孤高の人

kokounohito.bmp新田次郎著、「孤高の人」を読んだ。山岳小説というジャンルらしいが、とにかく大正から昭和初期にかけて生きた不世出の登山家、加藤文太郎の生涯を綴った物語。こいつは本を読まねーだろー、と思ってた友人から誕生日プレゼントとして贈られたんだけど、これは、やられた。稀にしか出会えないレベルの読み応え。ちょっとそいつを見直した。

この小説には、目の前にあるように美しく厳しい山頂の風景、孤高であろうとしても振り払えない人と触れ合うことへの渇望、そして人と触れ合えた時の喜びが、ふんだんに描かれている。孤独であろうとする心と、人との繋がりを求める心との葛藤にひどく共感した。物語の最後は、プロローグですでに予言されている通りに文太郎の死で幕を閉じるんだけど、そのあまりの壮絶な人生と、彼を待つ人のことを想って、読了後しばらく放心してしまった。

読み終わってこれが実在の人物(実名)の物語と知ってさらに驚愕。強烈な小説でした。激しくお勧め。

July 23, 2006

めぞん一刻

maisoniikoku.jpg
高橋留美子作、「めぞん一刻」を読破した。いわずと知れた80年代ラブコメ漫画の金字塔。小さい頃にアニメで少し見ていたけど、その頃は対して面白いと思えず続けて見てなかった。

高橋留美子作品は、小学生の頃連載してたらんま1/2が開始当初は好きだったけども、途中でだれてぐだぐだな展開になり始めてから興味を失い、以来現在の犬夜叉までその流れは続いていそうで良いイメージがない。でもやっぱりめぞん一刻は良い、と頻繁に聞くので通して読みたいと思っていた。

読んでみたら面白いこと面白いこと。優柔不断でだらしなくて意気地のない五代君と、頑固ではやとちりで妬き餅焼きで五代君以上に優柔不断な音無響子さん。こんなに主人公を応援したくなるのも珍しければ、こんなにヒロインにイライラさせられることも珍しいくらい感情移入した。いや、響子さんサイコーなんだけども。五代君があまりのも情けないのがいけないんだけども。しかしなんでこんな主人公に肩入れできるのかが未だに自分でも理解できない。

面白いのが、作中のほとんどのすれ違いが、今の世のように携帯電話やメールが普及していたら起こらない類のものだったということ。共用の置き電話の会話を響子さんが盗み聞きして誤解する、というエピソードが腐るほどあった。あと面白かったのは物語がどうやら連載とリアルタイムで進行していたということか。7年連載したらしいけど、途中響子さんの亡き夫の命日がたしかに5回も6回も出てきた。季節ネタも沢山あったし。五代君18歳、響子さん21歳から物語は始まり、最後は就職浪人した五代君が無事就職し、響子さんは27,8歳になっていた。それに思い至るとラストはやはり感慨深かったなぁ。

有名なプロポーズのシーンはラストではなかったと知って意外。あの後に2話エピローグがありました。そっちのほうが感動的だったな。五代君の最後の墓参りには泣けた。一番意外だったのは、終盤ベッドシーンなどがしっかりあったとこ。らんまや犬夜叉のイメージでてっきり少年誌(サンデー)連載かと思っていたら、ビッグコミックス連載だったんだね。というよりあの長さの連載でそれまで全くその手の話題に触れてこなかったのにいきなりだったってことに驚いたのだけども。でも一人の青年の青春全てをかけた恋愛を描ききったのがやっぱ一番エライ。

いやー名作。

July 17, 2006

積読本消化へ

最近読書のペースが著しく落ちている。読みたい本、読まなければならない本はまだまだこれどころではなくて、ここでしっかり積読本を消化していかなければならない!ということで、ここに未読、または未読了の本を並べて、モチベーションの維持に+皆様からの「これは読んだけど面白かったので読むべき」「これは微妙」というような感想情報をお待ちしております。

以下2006/07/16の時点で未読もしくは途中まで読んでいるが読了していない小説・エッセイ
オンライン書店ビーケーワン:薔薇の名前 上オンライン書店ビーケーワン:孤高の人 上巻オンライン書店ビーケーワン:大地の子 1オンライン書店ビーケーワン:最後の息子オンライン書店ビーケーワン:小僧の神様・城の崎にてオンライン書店ビーケーワン:へらへらぼっちゃんオンライン書店ビーケーワン:耳そぎ饅頭オンライン書店ビーケーワン:MOMENTオンライン書店ビーケーワン:書を捨てよ、町へ出ようオンライン書店ビーケーワン:若きウェルテルの悩みオンライン書店ビーケーワン:夜と霧オンライン書店ビーケーワン:キャッチャー・イン・ザ・ライオンライン書店ビーケーワン:リヴィエラを撃て 上巻オンライン書店ビーケーワン:白夜行オンライン書店ビーケーワン:ねじまき鳥クロニクル 第1部オンライン書店ビーケーワン:海辺のカフカ 上オンライン書店ビーケーワン:星を継ぐものオンライン書店ビーケーワン:永遠の仔 1オンライン書店ビーケーワン:火車オンライン書店ビーケーワン:春の雪オンライン書店ビーケーワン:水の翼オンライン書店ビーケーワン:労働貴族オンライン書店ビーケーワン:黄昏の岸暁の天(そら)オンライン書店ビーケーワン:ヒストリアン 1オンライン書店ビーケーワン:美の呪力

以下2006/07/16の時点で未読もしくは途中まで読んでいるが読了していないビジネス書・教養書
オンライン書店ビーケーワン:俺が、つくる!オンライン書店ビーケーワン:採用の超プロが教えるできる人できない人オンライン書店ビーケーワン:グレートゲーム・オブ・ビジネスオンライン書店ビーケーワン:日中企業の経営比較オンライン書店ビーケーワン:「儲かる仕組み」をつくりなさいオンライン書店ビーケーワン:情報システム計画の立て方・活かし方オンライン書店ビーケーワン:問題解決プロフェッショナル「思考と技術」オンライン書店ビーケーワン:熱狂する社員オンライン書店ビーケーワン:コスト削減の教科書オンライン書店ビーケーワン:ゴールドラット博士の論理思考プロセスオンライン書店ビーケーワン:頭のいい人の思考プロセスオンライン書店ビーケーワン:パート・アルバイト戦力化〈完全〉マニュアルオンライン書店ビーケーワン:フラット化する世界 上オンライン書店ビーケーワン:知的複眼思考法オンライン書店ビーケーワン:スピードに生きるオンライン書店ビーケーワン:トヨタとホンダオンライン書店ビーケーワン:戦争における「人殺し」の心理学オンライン書店ビーケーワン:死の壁

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July 09, 2006

煙か土か食い物

舞城王太郎著、「煙か土か食い物」を読んだ。

腕利きの救命外科医・奈津川四郎が故郷・福井の地に降り立った瞬間、血と暴力の神話が渦巻く凄絶な血族物語が幕を開ける。前人未到のミステリーノワールを圧倒的文圧で描ききった新世紀初のメフィスト賞/第19回受賞作。-「BOOK」データベースより

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舞城小説三冊目。阿修羅ガール(2003/01)世界は密室でできている(2002/04)→煙か土か食い物(2001/01)、と発表順で言ってだんだんと遡って読んでいるわけだけど、彼は最初からぶっとんでいた。今回のがデビュー作。色々と凝った試みを見せていた阿修羅ガールに比べると、この作品はエンターテイメントど真ん中という感じで、一ページ目からラストまで落ち着くことなく一気に読者を引っ張っていく。読書はおっくうとか、面白い部分に達するまでに飽きてしまう、という人でもこの人の作品ならどんどん読めるんじゃないだろうか。

この作品、書店等のジャンルではミステリーと位置づけらるんだろうけど、実際はミステリー風の全く異質なものだ。途中で犯人が誰とかどうでもよくなってくる。誰かがアマゾンのカスタマーレビューでうまいことを書いていた。

"ゴッド・ファーザー"がマフィア映画というジャンルでくくられがちだがその辺は単なる舞台設定に過ぎなくて実は「家族」の物語だったんだ…と実際に見ればすぐ分かるように、これも読み始めてすぐ、「あっこれもしかしてミステリじゃありませんね?」と気付く。

記事最上部に引用した紹介文にもあるように、多分に暴力と狂気がフィーチャーされた物語だけども、ミステリーの基礎である殺人事件の謎と過剰なまでの暴力をとりはらったら、残るのは家族の物語。そしてその極めて凄惨でアンリアルな家族模様を取り払ったら、残るのはとっても真面目でまっすぐな、そして極めてリアルな愛情の物語のはずだ。こんなに狂った話で、最後にうるっとさせられるとは思わなかった。これは、「世界は密室でできている」でもやられたパターンだ。この人の描くキャラクターの温かさになぜか胸を打たれる。

この本を読むには、まずこの人の乱暴な口語調の文体を受け入れられなくては辛いと思う。句読点も改行も少ないし、なによりそもそも著者がこの作品を書き上げる動機となっていそうなほどに、これまでの小説上のルールを破りまくっている。謎を推理するのではなく、謎が現れた瞬間即座に脈絡なくひらめく、とか、第一人称なのに現在進行形で書かれたりする、とか。正統的な小説に読みなれている人には読みづらいことこの上ないでしょう。でもそれを受け入れられたら、きっと好きになってもらえそうな気がします。

ところで、この舞城王太郎を世に出した、「メフィスト賞」ってのがどんな賞なのか気になったので調べてみた。すると、結構有名な作品がちらほら。未読だけど、森博嗣の「すべてがFになる」、殊能将之の「ハサミ男」なんてのはよく名作として耳にする。西尾維新もメフィスト賞出身だったとは驚き。最近少々首を突っ込んでみたライトノベルの世界で、時代のエース的扱いをよく受けてる人だ。受賞作の「クビキリサイクル」もこの前友達が読んでたな。でも他の歴代の受賞作とその簡単なレビューなんかを見てみたけど、なんか、結構微妙だ。あたりはずれが激しそうな印象。選考を、ファウストっていう小説雑誌の編集部内だけで行ってるらしい。「独断と偏見で」というやつ。でも、その独断と偏見の変な基準から、この才能を見出した。今では、ライトノベルというジャンルも、ミステリーというジャンルも超えて、芥川賞候補に挙がり、三島由紀夫賞に輝き、今度は小説家という枠を越えてマンガや映画製作に乗り出している。ジャンルとかほんとどうでもいいと思わせてくれる。こんな変な人を出すんだから、きっとすてた賞じゃないんだろう。そのうち他の受賞作にも手を出してみよう。

空色勾玉

荻原規子著、「空色勾玉」を読んだ。

国家統一を計る輝の大御神とそれに抵抗する闇の一族との戦いが繰り広げられている古代日本の「豊葦原」。ある日突然自分が闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられた村娘の狭也は、あこがれの輝の宮へ救いを求める。しかしそこで出会ったのは、閉じ込められて夢を見ていた輝の大御神の末子、稚羽矢。「水の乙女」と「風の若子」稚羽矢の出会いで変わる豊葦原の運命は。

福武書店版の帯の文句がなによりもこの本の世界を物語る。
「ひとりは「闇」の血筋に生まれ、輝く不死の「光」にこがれた。 ひとりは「光」の宮の奥、縛められて「闇」を夢見た。」

不老不死、輪廻転生という日本の死生観や東洋思想とファンタジーの融合をなしえた注目の作品。主人公2人の成長の物語としても、その運命の恋を描いた恋愛小説としても、一度表紙を開いたからには最後まで一気に読ませる力にみちている。中学生以上を対象とした児童書ではあるものの、ファンタジー好きの大人の読書にも耐えうる上質のファンタジーである。-amazon.co.jpの商品説明より

sorairomagatama.jpg最近ファンタジーがマイブームです。良質のファンタジーを求めてる時に友人に紹介してもらったのがこの作家。ファンタジーといえばやはり「剣と魔法」の世界観で、当初はやはりそういうものをイメージしていたのだが、こういう日本の古代とか、剣とか勾玉とかってキーワードに元から弱いので食いついてみた。

世界観は大胆にも日本の神話時代。古事記とかに出てくるような時代。登場人物は名前こそ違うものの、明らかにアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三貴士がモデルだ。日本風のファンタジーときたら、陰陽師系やもののけ姫のような八百万の神々と言ったモチーフなら触れたことがあったけど、この三神をキャラクターとして動き回らせるような物語には触れたことがなかった(スサノオはわりとお話しになりやすい伝説が残ってるので別だが)。それだけに凄く新鮮で、心躍らされた。日本神話には特別な思い入れがあるのです。

物語は会話中心でさくさくと進み、読み手をぐいぐいと引き込む。盛り上げどころの描写が少々物足りないと思わないでもないけど、クライマックスの迫力は申し分なかった。そこでそれを出しちゃうのか、と。

登場人物は、輝の大御神(イザナギがモデルと思われる)を崇める光の軍勢=神の軍団と、闇の大御神(同じくイザナミ)に守られる闇の軍勢=人間の勢力とに別れて戦う。面白いのが、ヒロインは闇の側につき、闇=人間として、神に歯向かおうという、光対闇の対立で読者の共感を闇に置こうとしているところ。イザナミは古事記でも黄泉の国の支配者とされ、闇はそのまま死を指し、この物語はしいては死の肯定、限りある時間の肯定、そして有限の時間の中でこそ人間は情を知る、という生の肯定を根底のテーマとして据えているように読める。児童文学らしい、読後に前向きな気持ちにさせてくれる一冊だ。

3部作らしいけど、とりあえずこの話はこの一冊で完結しているので、今は他の作品にどんどん触れていこうと思います。

上海ベイビー

衛慧(Wei Hui)著、「上海ベイビー」(原題:上海宝貝」)を読んだ。中国では発禁処分になると有名になるとかで、この作品もおそらくそれが知名度を上げた原動力だったんだろうけど、中国人の知り合いも大抵は知っている有名な作品のようだ。

クールな新人作家、衛慧が発表した本書は中国本土ですでに大ブレイク中の小説。不機嫌で短気で驚くほどみだらな筆致により、セックスにおぼれながら愛を模索する1人の美しい女流作家を描いた新感覚の作品で、大胆な性描写のため中国政府から発禁処分を受けたいわくつきの話題作だ。そのきわどさはヘンリー・ミラーの『Tropic of Cancer』(邦題『北回帰線』)に引けをとらず、衝撃度は『Trainspotting』(邦題『トレインスポッティング』)に負けていない。「魔都」上海の先端風俗の中、どんどん過激な情事にはまっていく主人公が飛びはね、わめき、手加減なしに全力疾走する姿を描いた本書は、アジアにおける新世代の台頭を表現した作品でもある。-amazon.co.jpの商品説明より抜粋

shanghaibaobei.jpgこの紹介文はちょっと閉口ものだけど、読んでみると意外に引き込まれる。ストーリーはほぼ無いに等しい、「過剰に自己投影されている」とされる著者の創作にあたる苦悩を描いた私小説的内容で、面白いことは無いはずなんだけど、とにかく文章がかなり新鮮。日本人にはまず思いつけないだろう表現がいたるところにあって、こんな表現があるんだと感心しっぱなしだった。本当に綺麗な描写が盛りだくさんで、たまに狙いすぎな表現が鼻につくけど(特にラスト)、全体的にかなり文章を味わう感性を刺激される。外国語作品の日本語訳なのに、日本語の可能性を広げられた気分だった。(今ちょっと本が手元にないので引用できないのが残念)

主人公は自己愛の強いかなり不安定な人物で、共感するのは男の僕にはかなり難しいんだけども、これは性差コンシャスな女性に物凄く受けそうな気がする。友人の何人かにはかなり強くお勧めしたい。スタイリッシュな文体もうけそうだ。享楽主義な人にもそれを軽蔑する人にもお勧めだと思います。

May 14, 2006

セカンド・ショット

川島誠著、「セカンドショット」を読んだ。

電話がなっている。君からだ。だけど、ぼくは、受話器をとることができない。いまのぼくには、君と話をする資格なんてない。だって、ぼくは…。あわい初恋が衝撃的なラストを迎える幻の名作「電話がなっている」や、バスケ少年の中学最後の試合を爽快に描いた表題作、スペインを旅する青年の悲しみをつづった書き下ろし作品を含む、文庫オリジナル短篇集。少年という存在の気持ちよさも、やさしさと残酷さも、あまりにも繊細な心の痛みも、のぞきみえる官能すらも―思春期の少年がもつすべての素直な感情がちりばめられた、みずみずしいナイン・ストーリーズ。

secondshot.jpg以前「800」というこの著者の作品を読んで非常に良かったので、続いて彼の出している短編集に手を出してみた。これもまたいい作品集で、特に表題作の「セカンドショット」は秀逸。「電話がなっている」という作品は、最近ここまで後味の悪い話は無かった、というくらいインパクトがあった。星新一あたりがこういう作品を書いていてもそこまで思わなかったかもしれないけど、爽やかな中学生の物語集の中にこの作品が挟まれていたからその衝撃度が断然違ったものになっていた気がする。とにかく全体的にレベルの高い小説集だったように思う。中学時代にこれを読んでいたら、なんか下手に大きく影響を受けてしまっていたかもと思うと面白い。今読んでこそ面白い類の話だとは思うけどね。

ダ・ヴィンチ・コード

davincicode.jpg
ダン・ブラウン著、「ダ・ヴィンチ・コード」を読んだ。内容に関しては説明不要かな。ストーリの展開そのものは至って平凡なんだけど、随所にちりばめられている薀蓄が面白くて仕方がない。ラストも、僕は大好きでした。ジーンと来てしばらくその「事実」に思いを馳せて立ち尽くしてしまいました(立って読んでいた)。クリプテックスが欲しい。

May 11, 2006

世界は密室でできている

舞城王太郎著、「世界は密室でできている」を読んだ。

十五歳の僕と十四歳にして名探偵のルンババは、家も隣の親友同士。中三の修学旅行で東京へ行った僕らは、風変わりな姉妹と知り合った。僕らの冒険はそこから始まる。地元の高校に進学し大学受験―そんな十代の折々に待ち受ける密室殺人事件の数々に、ルンババと僕は立ち向かう。

sekaiwamissitsu.jpg舞城ワールド2作目。今回はエンターテイメントまっすぐの爽快な青春モノ。密室事件が何度か起こって名探偵ルンババ12が解決するんだけど、これはあくまで話のアクセントでしかない様子。随所に繰り広げられる主人公二人のばかばかしいやり取りとかが非常に笑える。個人的に赤ん坊の泣き声が「フギャーイギッヒ」なのがツボ。で、プロットの大部分を占める事件たちはあまりにも狂っていて読者にトリックを予想することはほぼ不可能に近い。で、著者もそれをわかっているのかほとんどひっぱらずにルンババ12にあっさりそれを解かせてサクサク話を進める。結局、全ては冒頭とエンディングに凝縮されている主人公二人の愛と友情の物語だった。旅行に行くバスの中で、同行した友人達がみんな寝てしまったのでその間に読んでいたのだが、クライマックスでは高速を走るバスの騒音とみんないびきの中、一人感動に鼻をすすっていた。

短時間で楽しめるエンターテイメントをお求めの方にはとってもお勧めです。

March 31, 2006

個人的な体験

kojinteki.jpg大江健三郎著、「個人的な体験」を読んだ。脳に障害を持って生まれてきた赤子を、母親と対面させる前になんとか死なせようともがく男の物語。暗く陰鬱な展開が続くのに、非常に読みやすかった。大江文学をまともに読むのは初めてなんだけども、その多彩で豊かな表現力にまず驚かされる。表現がいちいち凝っているので暗くとも飽きずにサクサク読み勧められたのかもしれない。ラストの展開には正直驚かされた。そんなバカな、と。そしてエピローグの蛇足。

でも、自分は所謂「後日談」が好きである。小説としては、スパっと切れたほうが威力があるのは分かる。読者に委ねる、ということが大きな意味を持つことも分かる。ご都合主義に過ぎたり、わざわざ加えるべきでない、ぬるくてどうでもいい話がエピローグに多いのも知っている(この作品でも、作品としてはこのエピローグはいらないだろ、とやはり思った)。だけども、それでも「後日談」を読みたい、という欲求には抑えがたいものがある。物語の世界観に入り込むあまり、どんなどうでもいい話でも、その世界の人々の話が知りたい、という欲求。物語の続きに救いを求めることを、こちらの解釈と想像だけに任せることは、ある意味旅立つ友人の先行きに対する気がかりを、想像だけで満足させるようなものだ。やっぱり、友人がどうしてるか、友人からの回答が少しは欲しいと思ってしまうのだが、文学にそれを求めるなということなんだろうか。

とにかく、僕はこの作品にある「後日談」は肯定的に受け止めているわけです。他にも似たモチーフで色々書いているそうなので、違うテーマの作品を読んでみたい。文章もつぼにはまったし、人に勧めたくなる作家です。

March 15, 2006

Amebic

amebic.jpg金原ひとみ著、「Amebic」を読んだ。ストーリーはわりとどうでもいい作品なのであらすじは割愛。デビュー作で芥川賞を取った作家の第3作目。どこかで、小説家の真価は3作目で問われる、と読んだことがある。デビュー作は原体験やそれまでの貯金的なものを全て吐き出すようなもので、2作目は「1作目とは違う挑戦作」を書くことで、その人の残りのセンスが試される。そうなると、大抵の場合そこまででネタが切れ、3作目こそ作家として初めてまっさらな実力が試される、というような話だったと思う。金原氏の、その3作目。結構期待して読んだ。読み終わった後に、著者のインタビュー等を読んだが、本人曰く、「完璧だ、奇跡だ」だそうだ。ストーリー的にはなんてことないので評判はイマイチだが、個人的には共感、というか、言いたいことのなんとなく分かるような分かりたいような、そんな印象の作品なので、気に入った。特に、「皮膚も触覚も脳も思考も、全て分裂して自分自身が疎外され、隔離され、断絶されている感覚って、分からない?」 この感覚が非常によく分かる。説明しづらいが、似たような感覚に襲われる(まさに襲われるような感覚)ことが、稀にだけど確かにある。主人公は、なかなかいないようでよくいる、眺めている分には小気味いいほどの性格の悪さなんだけども、インタビューを読んで知ったところ、ほとんど著者本人の投影のような主人公だそうなので苦笑してしまった(作中の主人公はよくモデルに間違えられたりもする)。

また、珍しいな、と思ったのが、この小説、やたらと排泄のシーンが目立つことだ。小便や大便の用をトイレで済ますシーンが度々描かれる。生活を描く小説でも、なかなか描かれないシーン、だけども必ずあるはずのシーンなので、おっ、と思った。

短くて読みやすいけど、読了の満足感が得られるかは微妙なのでお勧め度としては「可もなく不可もなく」というところでしょうか。

March 07, 2006

ハゴロモ

よしもとばなな著、「ハゴロモ」を読んだ。

失恋の痛みと都会の疲れを癒すべく、故郷に舞い戻ったほたる。雪に包まれ、川の流れるその町で、これまでに失ったもの、忘れていた大切なものを彼女はとりもどせるのだろうか―。言葉が伝えるさりげない優しさに救われるときはきっとある。人と人との不思議な縁にみちびかれ、自分の青春をあらたにみつける静かな回復の物語。-「BOOK」データベースより-

hagoromo.jpg女友達の紹介で読んだのだけど、ちょっと気分じゃなかった。その人が感じた良さを自分は感じることができなったということが少し残念。

February 26, 2006

コンセント

田口ランディ著、「コンセント」を読んだ。

ある日、アパートの一室で腐乱死体となって発見された兄の死臭を嗅いで以来、朝倉ユキは死臭を嗅ぎ分けられるようになった。兄はなぜ引きこもり、生きることをやめたのか。そして自分は狂ってしまったのか。悩んだ末に、ユキはかつての指導教授であるカウンセラーのもとを訪ねるが…。彗星のごとく出現し、各界に衝撃を与えた小説デビュー作。 -「BOOK」データベースより-
concent.jpg医学生の友人との会話中だったか、どこかの本だったか、病気というのは「普通と違う状態」ということで悪いとは限らないとか、「脈絡なく意味不明なことを言ったりやったりする人を狂っていると言うけど、それはその人の思考経路や脈絡を捉えることができていないだけで、本当はその人にはその人の論理や脈絡がある」という話を聞いたことがある。この小説は、そういう一見精神を病んでいたと思っていた人の謎を解き明かしながら、さらに一歩進んでシャーマニズムというスピリチュアルな世界にまでつっこんだ挑戦的な作品だ。作中に紹介されていたが、WHOにおける健康の定義によっても「スピリチュアルに健康であること」が明記されているというのは興味深い
僕は元々オカルト的な話が好きじゃない。超常的なことを信じないというのではなく、僕自身が反証しきれないのでどちらかというと信じているほうだが、相手が反証できないことにつけこみ相手を不安に陥れ、それによって自分が優位に立とうするという心理を、オカルトで生きている人やそれを日常的に人に話す人たちに感じてしまうからだ。あらゆるオカルト話にそう感じるわけではないが、そういう用法が多いと感じている。この小説は、そういった嫌悪感を抱かせない「オカルト」な話だった。この作品でいう超常展開とは、本物のシャーマンの存在と、狂ってしまうということはシャーマンに近づく過程であるということ。実際、精神科医が何年もかけて治療にあたる心の病をシャーマンというか、霊能者というか、そう自称する人々が10分とかで癒してしまう例はいくらでもあるそうだ。元々「疑似科学」自体には非常にロマンを掻き立てられるので、本当は大好きなのかもしれない、オカルト。

また、この作品を受けてのチェインリーディングとして、真木悠介(見田宗介)著「気流の鳴る音」を読むことを自分に課すことにした。

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February 19, 2006

阿修羅ガール

舞城王太郎著、「阿修羅ガール」を読んだ。

好きでもないクラスメートの佐野明彦となぜか「やっちゃった」アイコは「自尊心」を傷つけられて、佐野の顔面に蹴りを入れ、ホテルから逃げ出す。翌日、佐野との一件で同級生たちにシメられそうになるアイコだが、逆に相手をボコって、佐野が失踪したことを知らされる。佐野の自宅には切断された指が送られてきたという。アイコは、思いを寄せる金田陽治とともに、佐野の行方を追うが…。
同級生の誘拐事件、幼児3人をバラバラにした「グルグル魔人」、中学生を標的とした暴動「アルマゲドン」。謎の男・桜月淡雪、ハデブラ村に住む少女・シャスティン、グッチ裕三に石原慎太郎。暴力的でグロテスクな事件とキャラクターたちが交錯する中を全力疾走するアイコの物語からは、限りなくピュアなラブ・ストーリーが垣間見えてくる。純文学やミステリーといったジャンルを遥かに飛びこえた、文学そのものの持つパワーと可能性を存分に味わっていただきたい。(中島正敏) -amazon.co.jpのレビューより抜粋-

ashuragirl.jpgこれは凄い。途中まで読み進めて、一旦休憩に本を閉じた時、「これは小説を超えている」と感じた。
ある思想の表現、真実の探求が言語芸術の機能だとしたら、コレは間違いなく高品質の芸術だ。語彙の少ない女子高生の口語調という所謂「純文学」的とは程遠い奇抜な文体を指してこの作品が偉い、ということではく、純粋にアイコの他愛ない思考、幼稚な行動で人間の真実をふんだんに描ききるという技術とセンスとメッセージ、その美学。似たようなものを、綿矢りさの「蹴りたい背中」を読んだ時にも感じたけども、こちらはさらにぶっとんでいる。
そろそろ現れると思っていた、「2ch」を代表とするネット上の匿名集合体社会の、そのリアル社会とそこに生きる個々人への影響力をしっかり取り上げた作品だということも特筆に値する。
文学の力を味わうには今ある最先端の作品の一つだろうということで、超お勧めします。

以下、印象深いパッセージをいくつか。

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February 14, 2006

パレード

吉田修一著、「パレード」を読んだ。

都内の2LDKマンションに暮らは男女四人の若者達。「上辺だけの付き合い?私にはそれくらいが丁度いい」。それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、“本当の自分”を装うことで優しく怠惰に続く共同生活。そこに男娼をするサトルが加わり、徐々に小さな波紋が広がり始め…。発売直後から各紙誌の絶賛を浴びた、第15回山本周五郎賞受賞作。-「BOOK」データベースより-

parade.jpg以前読んだ「パークライフ」が良かったので、彼の別の作品を手に取ってみた。彼の文体は何故か僕にとってとっても読みやすい。文章を読む、ということはそれなりに能動的な行動なので、作品によってはかなり疲れたりするし、そうでなくとも一定の体力というか、脳力というか、とにかく労力を要する。けど、彼の作品はほぼノーストレスで、スっと入ってくる。このパレードも、導入はごく普通の大学生の日常をリアルに描いていて、その親近感からかやはり非常に読みやすい。物語は章を追うごとに、5人暮らしする男女5人のそれぞれへ視点が移っていく。視点は移るが、時間軸が一つまっすぐに続いているので、前章の続きを別の人物の視点で語っていく、という構成。そして、そうやって5人全員の主観が語られていくなかで、その人間関係の微妙さと、絶妙な距離感を浮き彫りにしていくのが実に巧い。5人はそれぞれどこか病んでいるんだけども、本人達はそれに気付かない、というかその苦悩を無視するかのようでいる。描写は極めてリアルであるけども、登場人物はどこか異常で、一見非日常的。でも、現実の人間達も、こうやって苦悩や病理と折り合って生きているのかもしれないと思えてくる、そういうリアルさがこの小説にはある。読んでいる途中は、なかなかにほのぼのとした感覚で読んでいたけども、読了後に残るのは、当初は予想もし得なかったある種の不快感と、恐ろしさ。全く良く出来た小説だと思った。

February 13, 2006

羊のうた

最近漫画を読む機会もめっきり減ったので、これからは良作に出会ったら漫画もBiblio Logに記録して行こうと思う。

lament2.bmp冬目景の「羊のうた」を読んだ。父親の友人夫婦に育てられたこと以外は、ごく普通に暮らしてきた高校生の一砂。ある日突然の吸血衝動に襲われ、密かに想いを寄せていた同級生の八重樫を襲いかけてしまう。自らの衝動に戦きながら吸血衝動と共に蘇った記憶を頼りに生家に赴くと、そこには幼い頃に別れた姉、千砂の姿があった。千砂は、二人が吸血鬼のように血を欲する奇病を生まれ持つ家系の出であること、もう普通の生活は送れないことを告げ、一砂に自分の血を差し出した・・・ ・・・という風に始まるお話。

吸血衝動、和服、日本家屋、近親相姦、血の繋がらない家族。暗くて救いの無い話なんだけども、読み終わった後に何か心に残る作品だった。長さも7巻と丁度良く、一つの物語としてよいまとまりを持っている。そして何より絵がとても綺麗だ。物語が進むに連れて深まっていく悲壮感と共に、絵柄も益々綺麗になっていく。悲しいのに、見とれてしまう。

この作品、アニメ化も実写版映画化もされているようだ。でもなんかこの漫画の世界の雰囲気は超えられない気がする。久々の良作。冬目氏の漫画は初めて読んだけども、他も期待大だ。

February 11, 2006

実録・外道の条件

町田康著、「実録・外道の条件」を読んだ。

許さん。復讐の鬼と化した俺は三年間洞窟にこもって本稿を書き綴った・・。
約束の場所に行ってもおらず、携帯に電話してもつながらない記者。撮影現場で目もあわせず、紹介されても挨拶もろくにできないヘア&メイク。などなど以下延々と続く。鞭無能な各種マスコミ、業界人へ怒りの町田節!-amazon.co.jpから引用-

gedou.jpg町田康の文学が読みたくて古本屋の本棚を漁っていて手に取ったのがこの作品。小説だと思って買ったら、エッセイ集のようなものだった。彼の業界にて体験した理不尽な出来事の数々を面白おかしく愚痴りながらそれをもたらした人々を達観した視点から鋭く批判する。上に引用した紹介文を買う前に読んでいたならおそらく買っていなかったな。けど、裏表紙にあった本文からの引用を使った紹介文、「なにゆえかくも話が通じないのであろうか。丁重な文面であるにもかかわらず、その文面のなかにときおり顔をのぞかせる強い調子、攻撃的な排他性のごときを改めて強く感じ、その根拠として彼らが標榜しているボランティアという概念について、普段そんなことについてまるで考えたことのなかった私が、この困惑を契機に深く考えるようになってしまったというのは、いったいいかなる因果・因縁であろうか。(「地獄のボランティア」より)芥川賞受賞第一作となった傑作小説集。」を読んで、これは世の中の欺瞞について町田流に語ってくれるのかな、と思ったわけだから、その点は裏切られなかった。
読み進んでいくと、文章は頭の回転が早い人にありがちな無駄に長い文章(読点を多用していろんな事実を一つの文章で一気に語ってしまう)で、読みにくいことこの上ないのだがあまりの語り口の滑稽さに笑えてきて、気付くとこの町田康という人物を好きになっているから不思議だ。最後の一編はくどさが過ぎて読むのが辛かったけど。
次は是非彼の渾身の長編小説を読んでみたい。

February 08, 2006

不自由な心

白石一文著、「不自由な心」を読んだ。

大手企業の総務部に勤務する江川一郎は、妹からある日、夫が同僚の女性と不倫を続け、滅多に家に帰らなかったことを告げられる。その夫とは、江川が紹介した同じ会社の後輩社員だった。怒りに捉えられた江川だったが、彼自身もかつては結婚後に複数の女性と関係を持ち、そのひとつが原因で妻は今も大きな障害を背負い続けていた…。(「不自由な心」)人は何のために人を愛するのか?その愛とは?幸福とは?死とは何なのか?透徹した視線で人間存在の根源を凝視め、緊密な文体を駆使してリアルかつ独自の物語世界を構築した、話題の著者のデビュー第二作、会心の作品集。-「BOOK」データベースより-

fujiyu.jpg読んで楽しい小説ではなかった。生々しい話であるからというのもあるだろうけど、著者が読者のためにこの作品を書いていないからかもしれない。5つの作品を収録してあるのだけど、どれもその辺のどこにでもいそうな、ちょっと仕事ができて人並みに女性付き合いのある、ごく普通のサラリーマン達が主人公。彼らの仕事内容等に関する設定も細かくて、会社人というのはこういうものかと思わせるリアルさがある。そして、リアルがゆえに、重苦しい。冷めた夫婦愛、親子愛、不倫、社内の派閥、親の看護、死、転属、リストラ、etc。30代や40代の日本人男性は、みんなこんなにも鬱屈したものを抱えて生きているのかな、と。だけど、やはりその日本人サラリーマンの誰もが思うであろう、その時続けている生活の是非、自分の人生の意味への問いかけ、人間の心の本当の裡、そんなものを真面目に真面目に描いている。女性には不愉快に思える内容かも知れないけど(男の身勝手さが男の言い分でこれでもかというほど描いてある)、それだけに、今の日本の中年の男女関係を考えるにあたって読んでよかったと思った。特に表題作のインパクトは大きかった。特に、死に対する考察。人間は最も愛する人の死によって、死の恐怖と生への執着から解放される、というもの。したがって、愛する人への最も尊い行動は、その愛する人の腕の中で死んであげることだと。主人公がこの考えに至るまで色々あって、簡単に共感はできないのだけども、深く、考えさせてくれた。

読むなら、表題作だけじゃなくて、初めから通して読んだほうがいいと思うけど、途中で辛くなるかも知れないのであまりお勧めはしない。

January 21, 2006

Missing

missing.jpg本多孝好著、「Missing」を読んだ。いずれも死を題材にした短編が5作収録されている。もうずーっと前から、渋谷Q−Frontにあるツタヤの上の本屋で、「当店最大のおすすめ!」みたいに並べられてて、そのおかげで結構気になっていた。この前の一時帰国でも、相変わらず同じようにお勧めされていたので、買ってみた。で、読んだ感想は、「普通」だった。いや、とても面白いんだけど、普通に「とても面白い」というか。でも、あんだけ沢山面白そうな本を抱えてる本屋であれが特別、ってことは絶対ないと思った。あれを書いた店員はよっぽど本を読んでない人なんでは、とまで思ってしまった。人それぞれだとは思うんだけど、この程度の本に最大の売り文句をつけるってのは販促上どうなんだろうなぁ、と。

作品は、5つのうちいくつかにはとっても胸に何か残るものがあるいいのもあるんです。僕は最初と最後以外の3作は、短編として楽しめたし、読後の余韻にも満足感を持って浸ることができた。文章もウィットを利かせようとしてたり、流行のスタイルは抑えている感じ。ただ、死を描いたり、その死との関わりを描くのならともかく、物語の進行上の都合のため人を死なせるのはつまらないと思った。「当の本人は死んでいるので聞くことができない」とかこういうのばっかりだ。前に「真夜中の五分前」という彼の作品を読んだけど、あれも今思うと相当ヒドイ(Side−Bのほう)。実はもう一冊この人の小説を買ってきてあるんだけど、なんだかもう読む気がしなくなってきた・・・

まぁでもその点を除けば楽しめた一冊であることはちゃんと書いておかないとね。

January 20, 2006

蛍川

宮本輝著、「蛍川」を読んだ。
田舎の少年の思春期を描いた作品。昭和30年代の物語で、この作品は30年近く前に著者が30歳の頃に執筆したモノ。ということは著者の少年期も昭和30年代というわけで、当時の人々の様子や風景が非常にリアルに描かれているのだが、もしかしたら著者の少年期にみたものがベースになっているのかもしれない。そうだとしても、どうしてこんなに子供の心の機微が表現できるのだろうと唸ってしまう。全体的に空気は暗いけども、なぜか読んでいて胸の高鳴る良作。

この蛍川で芥川賞を受賞した宮本輝は96年からはこの賞の選考委員にもなっているそうだ(その他の委員は、池澤夏樹・石原慎太郎・黒井千次・河野多惠子・高樹のぶ子・古井由吉・三浦哲郎・村上龍・山田詠美)。今年もつい最近選考会があったとか。年々芥川賞の受賞層が若年化していってるみたいだけど、これは文学のレベルが昔と比べて進歩しているというより、毎年二回も選考する中で、あまりにもこれと言った人が少ないため、どんどん以前は存在すらしていなかった新たな才能へ新たな才能へと目線が移って行ってしまうからなのでは、と個人的には思っている。今年はどんな人が来るんだろう。

と思ってたらもう発表されてたや。

January 16, 2006

ナラタージュ

島本理生著、「ナラタージュ」を読んだ。

壊れるまでに張りつめた気持ち。そらすこともできない二十歳の恋。
大学二年の春、片思いし続けていた葉山先生から電話がかかってくる。泉はときめくと同時に、卒業前に打ち明けられた先生の過去の秘密を思い出す。今、最も注目を集めている野間文芸新人賞作家・初の書き下ろし長編。-amazon.co.jpから引用-

narratage.jpgタイトルに惹かれて買った。タイトルの意味は調べるまで知らなかったので、タイトルの響きに、というほうが正確。しかも強烈に買いたいという衝動に駆られた。なんでだろ。調べてみたら大した意味ではなかった。内容は超がつく純愛小説。昨今ほとんどの物語に恋愛の要素はつき物だけど、なんだかんだ言ってもう一つ軸となる要素が大抵はある。陸上と恋愛、とか、冒険と恋愛、とか。内容の100%が恋愛だけ、ってのは何気に読んだ記憶がほとんどないや。

読み出しは、ははぁー、淡々とした綺麗な文章を書くねぇ、と思った。(著者83年生まれ)
ちょっと読み進めたあたりでは、会話が心なしかぎこちないし、文章もあんま上手くねぇな、と思った。
半分以上過ぎたあたりでは、凝った構成してるなぁ、と感心。
終盤に差し掛かると、抜群に文章の切れが冴えてるように思えてくる。
クライマックスでは、せ、切ねぇーーっ!!と悶えた。
最後の1ページで、あぁ・・もう終わりかぁ、そっかそっかぁ、と感慨にふけっていた。
で、ラスト一行で、泣いてしまいました。

思い返してみれば細部の描写が生き生きと甦って来る。力のある作品だった。心が疲れてる時は恋愛小説なんか気軽で良い、と思っていたのだけど、これは読後感の重さが、あんまり気軽な作品ではなかった。もちろんこれは褒め言葉。ここまで読書自体の楽しみ以外の感情を揺さぶられたのは久しぶり。おそらく、特別な人と一人でも出会ったことのある人なら、まともにダメージをくらって暫く立てなくなるんだろう。過去に特別と思える大切な出会いを経験したことのある人全てにお勧めの良作ですね。

島本理生。以前高校生で芥川賞にノミネートされていて話題になっていたので名前だけは知っていた。その後ももう一度ノミネートはされていたみたいだけど受賞は逃しているみたいだ。まぁでももうこの人が力のある作家だということは分かったので、芥川賞作家にならなくとも、彼女の他の作品は手にとっていくでしょう。

January 15, 2006

800

川島誠著、「800」を読んだ。

なぜ八〇〇メートルを始めたのかって訊かれたなら、雨上がりの日の芝生の匂いのせいだ、って答えるぜ。思い込んだら一直線、がむしゃらに突進する中沢と、何事も緻密に計算して理性的な行動をする広瀬。まったく対照的なふたりのTWO LAP RUNNERSが走って、競い合って、そして恋をする―。青空とトラック、汗と風、セックスと恋、すべての要素がひとつにまじりあった、型破りにエネルギッシュなノンストップ青春小説。

800.jpg読んだのは日本海上空の機上、およそ800メートル走の舞台とはかけ離れた場所でその世界に浸っていた。内容はあらすじやジャンルすら全く知らずに買った本だったのだが、前日丁度高校の同期とある100メートル走モノ青春マンガについて熱く話をしていたばかりで、読み始めてこれが陸上モノであると知った時にその偶然に早速高揚感を覚えた。内容は高校生の青春そのものでおそらく大きなテーマの一つを肉体においている。恋愛関係のみならず解説文に江國香織さんが書いているようにトラックで躍動する肉体こそ「官能的」に描かれている。そしてそれでいてとんでもなく爽快な読後感。生々しいシーンも多く描きつつも爽やかさを損なわないのはこの著者の力量なんだと思う。余分な部分もあったと思うけど、全体的に見れば間違いなく良作。ただの表紙買いでよくこれだけ良い作品に出会えたなと自分の幸運に感謝。とっても読み易いので、「読書嫌いで元陸上選手」という属性の友人に贈ってみようかな。

100メートル走のマンガについて友人と話していた時にも思ったのだけど、こういった一見ただ走ってタイムを競うだけ、というようなスポーツは、ある意味分かり易いので観るほうもそれなりに興奮を覚えるが、その細かい部分での技術的な難しさや面白さはただ見ているだけではなかなか分かるようで分からない。こういった物語や細かい描写に触れて初めてより深いレベルでの競技性や醍醐味を知ることができるんだなと実感する。その意味でこういった作品は実に偉い。この作品も、800メートルという日本ではあまりメジャーとは言えない種目を取り上げていてその駆け引きの様子などがとても新鮮。これから競技を見る眼が変わるだろうなと思う。

January 11, 2006

ラッシュライフ

伊坂幸太郎著、「ラッシュライフ」を読んだ。

歩き出したバラバラ死体、解体された神様、鉢合わせの泥棒-。無関係に思えた五つの物語が、最後の最後で一つの騙し絵に収録する。これぞミステリー! -MARCデータベースより-

life.jpg11月末から年末にかけて1ヶ月の間に伊坂作品を4作読んだ。その最後の一冊。初期の作品(2作目)らしいんだけど、確かによくできている作品。細かい部分をうまくからめて全体として纏め上げたのはかなりの力量だと思える。ただ、あまりに「あらゆること」が絡んでいくため、どんな複線も、複線であることが分かりすぎるくらいで、先がかなり読めてしまう。もともとミステリーがあまり好きではないからかそう来るか!という部分もかなりあったにもかかわらず、あまり興奮できなかった。会話のテンポや文体は好みなんだけどね。やっぱりミステリーは読後感が寂しい。種が分かるとそれだけな話の場合が多いから、心に残らない。

December 19, 2005

家出のすすめ

iede.jpg寺山修司著、「家出のすすめ」を読んだ。刺激的なエッセイだった。人生の大先輩に価値観を諭されているような感覚を覚える。これを記した当時、彼はまだ27歳だったというから信じがたい。制限の無い自由な思考、モラリティーへの挑戦。こんな言葉が思い浮かぶ。いろんなことをすすめられるこの一冊。なんとなく他人に勧めたくないと思わせる。自分だけがこの人の考えに触れていたい。そんな感じ。

December 15, 2005

蒼穹の昴

浅田次郎著、「蒼穹の昴」を読んだ。

新生面をひらく特別書下ろし超大作!
この物語を書くために私は作家になった。――浅田次郎

汝は必ずや西太后の財宝をことごとく手中におさむるであろう──。
中国清朝末期、貧しい農民の少年・春児(チュンル)は占い師の予言を信じて宦官になろうと決心した。 - amazonのレビューより

soukyu.jpgまさか2005年ももう終わるというこの次期に、これほどの作品に出会ってしまうとは!!つい最近年間ベスト小説を既に宣言してしまったが、これを読んでからでも遅くはなかったな。もちろん全くジャンルが違うので比較はできるわけもないのだが。タイトルだけは高校の頃からずっと気になっていた作品。先月親父から読んでみろと送られて読み始めた。表紙を開くとすぐに中国清朝歴代皇帝の系図が目に入り、これが中国清代を舞台にした作品だとその時初めて知った。読み終わってみれば、超一級のエンターテイメント!寝るのを忘れて読み耽った本なんて本当に久しぶりだ。単行本4冊に渡る長編だが一気に読んだ。小説を読む悦びを思い出させてくれる傑作。

物語冒頭、一人の糞拾いで生計を立てる少年と、その一帯の地主のぼんくら息子が、共に占い師によって将来の中国のトップに立つと予言される。ファンタジー風の中世サクセスロマンかな、と思って読み進める。序盤はこの一見ぼんくらに見えた青年が、科挙に登台していく様をみっちり描く。この辺の描写が、ホントに古来続いてきた中国という帝国の伝統に細かくて、物語中盤に差し掛かるまでこの物語は中世が舞台だと信じ込んでいた。実はこの物語は清が列強によって悉く侵食され崩壊していく近代の物語なのだが。科挙は、中国で清が崩壊するまで1300年間続いてきた巨大制度で、国家公務員試験のようなもの。中国は古来この科挙による完全学力主義で国を治めてきた。どんなに有力な大臣の子供でも、科挙を突破しないと役職につけない。そのエリート中のエリートを選抜する科挙に主人公の一人が挑んでいく様はそれだけでも興奮モノだった。

でもそれはほんの序章、科挙を突破すると、舞台は紫禁城に移り、清代末期に何代にも渡って専横政治を敷いた西太后や多くの宦官達が登場し、その生活が細かく描かれる。この作品では一般的には悪鬼のように思われている西太后が非常に人間的に描かれていることが印象的(人間的というか、妙にぶっとんでいて作中でも異色)。他にも登場人物は実に豊富で、そのどれもが非常に深い個性をもたせられている。中盤以降は、各国のジャーナリスト、特に日本の岡圭之介やニューヨーク・タイムズのトム・バートンが目立ち始め、物語の視点が彼らに移っていく。物語のスケールはやがて世界を巻き込み、伊藤博文やヴィヴァルディと「四季」まで登場してくるから面白い。この辺りからファンタジーっぽさ、サクセスロマンっぽさは薄れていき、本格的な歴史小説の様相を呈していく。いきさつはともかく、起こった出来事等は大体史実に忠実に描かれているらしい。

自分にとって作中最も印象的なキャラクターだったのは、李鴻章という人物。彼は実在した人物で、当時唯一の近代武装された軍を掌握していた大将軍。名前は覚えていなかったが歴史の教科書に出てきていたはず。日本史では、日清戦争の下関条約の調印に訪れた全権として登場する。日清戦争は、実は日本対清国ではなく、日本軍対李鴻章の私設軍だったというから驚き。これ史実らしいんだけど、軍の費用を自腹で出してたんだってこの人。とにかくこの人物が本当に魅力的に描かれていて、中盤は彼の独壇場だった。香港をイギリスに99年間明渡す交渉のくだりなど、実に痛快。世界史に詳しい人には特にニヤリとさせられる場面が多いんだろうな。

終盤は様々な立場の人間がそれぞれの想いを持って動きまわる群像劇という感じになるが、一人一人があまりに個性的なため全く混乱しない。伝統、維新、親子、義兄弟、陰謀、裏切り、正義、ジャーナリズム、様々なテーマが収束していく。そしてクライマックスへ。まさに感動の嵐だった。

読み終わるまでに何回泣いただろう(笑 とにかくこの作品を誰かと語りたくてしょうがなくなる、そんな作品。中国に興味が無い人にこそ読んで欲しい。

ちょっとだけ当時の情勢に詳しくなれるし、読み応えがあって「面白い」小説が読みたい人には文句無しにお勧めします。

December 06, 2005

存在の耐えられない軽さ

umbearable.jpgミラン・クンデラ著、「存在の耐えられない軽さ」を読んだ。これは、凄い。恋愛小説、とあるが、登場人物もその人間関係も、作者が思考を重ねるための装置でしかない。書き表せないほどの衝撃。読み終わってしばらく経つが、未だにこの作品のことが頭から離れない!これほどに正確な言葉で、作中のあらゆる事象を表現した作品を他に知らない。ボルヘスや三島由紀夫を読んだ時と似たような感覚、この作品を手にとれたこの僥倖。

解説は試みない。ただ読んで欲しいです。僕が2005年度に出会った小説、いや、あらゆる芸術の中で文句なしのナンバーワンです。この本を僕に贈ってくれたkosukeyazに心から感謝。

December 04, 2005

パーク・ライフ

吉田修一著、「パーク・ライフ」を読んだ。

停車してしまった日比谷線の中で、間違って話しかけた見知らぬ女性。知り合いのふりをしてくれた彼女は同じ駅で降り…。東京のド真ん中「日比谷公園」を舞台に男と女の「今」をリアルに描く、第127回芥川賞受賞作。 -「MARC」データベースより

parklife.jpg芥川賞受賞作ということで手にとって読んでみた。これまでに読んだ芥川賞受賞作に比べるといくらかおとなしい印象を受けるが、これはこれで非常に面白い。日常を淡々と描く作品なので退屈に思う人には退屈なんだろうけど、僕はこの手の小説が大好きだ。文章も綺麗で、風景の描写、微妙な距離感を保った人物同士の機微などが繊細に、丁寧に描かれている。本も薄くて、さらに短編が2本しか入っていないのであっという間に読み終えてしまうが、読み応えのある一冊。表題作も良いが、合わせて収録されている「flower」もかなり良い。導入部は引き込む書き出しだし、受けを狙ってると思えないシーンでも何故かどうしようもなく可笑しかったり、この著者の作風に非常に好感が持てる。「東京湾系」というドラマにもなった恋愛小説も書いているそうだが、この人の作品は他にもちょっと手を出してみたい。

オーデュボンの祈り

伊坂幸太郎著、「オーデュボンの祈り」を読んだ。

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?卓越したイメージ喚起力、洒脱な会話、気の利いた警句、抑えようのない才気がほとばしる!第五回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した伝説のデビュー作、待望の文庫化。 -「BOOK」データベースより

audubon.jpg奇抜な作品だ。リアリティの無い登場人物達もそうだが、連続殺人事件の最初の犠牲者が「カカシ」ってのがなんとも。しかもこのカカシ、面白いことに、それまでは島の「名探偵役」だった人物(?)。この島で起きる事件は、すべてこのカカシに聞けば解決してもらえていた。ミステリーにおける最重要人物である「名探偵」たるカカシが、物語開始そうそうに舞台から姿を消してしまう、という半ばアンチミステリーの様相を呈している。作中に、「名探偵は誰のために存在するか知ってる?読者のためよ」っていうような台詞も登場する。そういった物語の中の「機能」としての「名探偵」がその役割に気づいてしまったら、果たしてどう思うだろうか、というアンチテーゼも提示しているような、そんな作品。落ちがちょっとありがちで、全体的に凄く面白い、というわけではないんだけど、ちょっと懐かしい勧善懲悪なノリのようなものもあって読んで損はしなかった。

あと、作中に出てくる「オーデュボン」という人物名だが、これはアメリカに実在した鳥学者らしく、彼が愛したという「リョコウバト」という鳩の存在に驚いた。20世紀初頭に人間が乱獲により絶滅させてしまった鳥らしいのだが、超大群で飛ぶらしく、その数は数億とも数十億とも言われていて(ちょっとうそ臭いけど)、リョコウバトが頭上を横断すると辺りがしばらく暗くなったほど、と言われていたそうだ。そんな壮観な光景、一度でいいから、見てみたかった。

wikipedia-リョコウバト

December 01, 2005

死神の精度

accuracyofdeath.jpg伊坂幸太郎著、「死神の精度」を読んだ。その人間が本当に死ぬべきかどうか調査するために、人間界に派遣されて来る死神の話。それぞれの任務につき1週間しか人間界に滞在できない彼らの、6つの任務の短編集。それぞれが全く違うスタイルで描かれているのも面白いが、何より最大の魅力は、この「死神」のキャラクターだろう。そしてそのキャラクターを引き立てる伊坂氏のクールな文体。スタイリッシュな娯楽小説に仕上がってると思いました。ページ数は少なく、ちょっと読み易すぎる点が物足りないと言えば物足りないけども、肩の凝らない読書がしたい時に、とっても気持ちよく楽しめる一作。ラストは、文句なしに良い。良さのあまり、巨大なため息をつきながら脱力してしまった。

李歐

高村薫著、「李歐」を読んだ。

惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李欧。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。(「BOOK」データベースより)
liou.jpg男同士の運命の出会いを丁寧に描いた良作。これは面白い。もはや友情と呼べるレベルではないお互いへの執着。かといって性愛があるわけではないのだが、一つの約束のためにお互いを想い続ける様はやはり独特の妖しさがある。美しく破天荒で全てを思うがままに可能にする李歐に対して、主人公の吉田はあまりにも平凡な男。物語は彼の視点でのみ語られるので、プロットはいたって退屈なものだ。李歐の派手な活躍は、噂話で聞こえてくるだけなのだ。だけど、そんな吉田に、李歐ほどの男が固執しているということが、読み手にも変な高揚感を与えるんだと思う。クライマックス、約束の地で運命がもう一度出会うシーンは壮観。

ちなみにこの高村薫という作家、ちょっと前に少し話題になった女流作家なのだが、たびたび文庫化する際に大幅な改訂をするらしい。この作品も、「わが手に拳銃を」という作品を下書きに、ほぼ別の作品と言っていいほど書き直し、事実タイトルも変えて別の作品として出版した、というものらしい。読んだ人に言わせると、「わが手に拳銃を」を読んでからのほうが「李歐」を楽しめた、というからちょっと残念。他にも直木賞受賞作品さえも大幅に改訂して出版するなど、かなりのこだわりへの徹底振りを見せている。そういうスタンスは、なかなか好感がもてる。

November 30, 2005

慟哭 (アマゾン社の反則)

doukoku.jpg貫井徳郎著、「慟哭」を読んだ。成田空港で表紙買いした。そのちょっと前に北村薫の作品を読んでいて、その人が帯の紹介文を書いてていて目にとまった、というだけの理由だけど (勘違い。僕が読んだのは「高村薫」さんの作品だった。勘違いしたまま購入したのですが、とにかくこういう経緯)。連続殺人事件を追う刑事と、連続殺人犯の対決を描く本格ミステリー長編。記者会見での捜査情報公開に対する葛藤、エリート刑事の孤独とプレッシャー、仕事により崩壊する家庭、そして新興宗教。面白いテーマが沢山ちりばめられているが、中でも新鮮だったのが、マスコミと警察の情報公開に関わる問題の難しさの描写が細かかったことだ。やっぱり警察ってのは大変な職業だと改めて思い直せます。帯にも書いてあるが、まさに「仰天」のラストは圧巻でした。文章が渋くてなかなか読み応えがあった。ホントに、たった一つの「しかけ」だけの小説で、それがちょっと物足りないけど、そのワンアイディアを上手く活かしきった良作。

これは、友人等に勧める際にも、絶対に「ネタバレ厳禁」の類の本だ。トリックをほのめかすだけでもいけない。しかしこの作品、驚いたことに、amazon.co.jp他多数のオンライン書店の内容紹介で、その作中唯一にして最大の「しかけ」とも言うべきトリックが、完全にネタバレされてしまっている。「MARC」データベースとやらからの引用らしいが、これは酷い。はっきり言ってこの400ページを超えるテキスト量は、最後にその事実が読者に明らかにされ、思わず空を見上げてしまうほどに驚かすためだけの材料と言っても過言ではないはず。それを読む前に明かしてしまったら、驚かすためのような小説に驚けなくなるので、はっきり言って400ページ読むのが無駄になる。ミステリーというジャンルにおいて、あまりにも致命的なミスである。

アマゾンと言えば世界最大級のオンラインショップだ。その影響力を考えると、著者への損害は甚大だろう。これだけの驚きをもたらせる文章力と構成力を持っているのに、だいなしだ。なにより、この作品を楽しみに購入ページを訪れた読者に対してあまりにも酷い仕打ち。アマゾンへ指摘メールを送ってみた。

November 22, 2005

真夜中の5分前 Side-B

mayonaka_B.jpg本多孝好著、「真夜中の五分前 Side-B」を読んだ。以前続きがあるとは知らずにSide-Aしか持っていない友人に借りて読んでしまったので、今回母と祖父が訪連した際に買って来てもらった。Side-Aは文体と独特のテンポが凄く気に入り、満足していたのでSide-Bもわくわくしながら読んだ。その期待があったからなのか、どうもSide-Bは満足できなかった。Side-A、Side-Bと無理矢理2冊にわけただけあって、物語の雰囲気ががらりと変わっていて確かに驚いたが、そのひねりが活かしきれていないように感じる。それに話がやけに短く、いかに雰囲気が変わると言ってもマーケティング上の都合以上に2冊に分ける必然性を感じなかった。

もっと言うと、Side-Bでの文体は斬新さを越して嫌らしい感じすらした。独自の比喩や言い回しを試そうとしているのだろうがあまりにも不自然で、完全にマイナス効果だったように思う。少なくとも自分はそういった表現や描写が出るたびにうんざりした思いにさせられた。村上春樹の初期の作品(羊をめぐる冒険など)にも、同じ理由で嫌悪感を感じたものだ。

物語的にも、確かに面白いテーマをついているなと思ったが、それを描ききった、とは言えずSide-Aでの複線消化に使われた部分が多かったように思う。一部の複線の消化を無視すれば、Side-Aで完結させていてもなんら問題はなかったんじゃないかな、と。読者としては。

Side-Aで感じたような好感もこの人本人のものには違いないので、今度彼のミステリーを読んでみようとは思っている。

November 07, 2005

僕の特別な本

kosukeyazの「独断と偏見で選ぶ良書10冊」を受けて、自分も選んでみよう。

僕も読書家には程遠いけれど「独断と偏見で」10冊特別な本を。小説という分野に絞ると、以下のとおりかな。他にもビジネス書や伝記、新書なんかでも影響を受けた本や、強い印象が残っている本は沢山あるのだけれど。しかし10冊って難しいな・・・

『細雪』 谷崎潤一郎 04
『金閣寺』 三島由紀夫 94、04
・『ノルウェイの森』 村上春樹 94、97、02、05
・『五分後の世界』 村上龍 96、98
・『カードミステリー (Kabalmysteriet 邦訳)』 ヨースタイン・ゴルデル 02
・『緋色の研究 (A Study in Scarlet 邦訳)』 コナン・ドイル 91
・『Lord of the Flies (蠅の王 原文)』 ウィリアム・ゴールディング 96 98
・『Catcher in the Rye (ライ麦畑でつかまえて 原文)』 J・D・サリンジャー 98 00
『燃えよ剣』 司馬遼太郎 04
・『はてしない物語 (Die Unendliche Geschichte 邦訳)』 ミヒャエル・エンデ 92
(リンクは過去の書評エントリー。数字は僕が読んだ年)

感銘を受けた名作ということならたった10冊選ぶなんてできないので、よく思い出す作品、ということで選んでみた。目の前にマイ本棚は無いし。あと著者一人につき一冊。kosukeyazも挙げていた「存在の耐えられない軽さ」は最近のベストヒットだったのだが、読んだのが最近すぎてこの基準だと外れる。ちなみにこれはkosukeyazが日本の活字に餓えていた僕に日本からわざわざ送ってプレゼントしてくれた本のうちの一冊。他にも沢山の良書を送ってくれた。貧乏学生なのに・・・
見返してみると、読書の楽しみを教えてくれた本たちが多い。読んだそれぞれの時期に、新しい楽しみ方を示してくれた本たち。あ、読んだ年を横に記してみよう。

そのうちノン小説10冊とかマンガ10冊とかやってみようかな。

October 17, 2005

真夜中の五分前

mayonaka.jpeg本多孝好著、「真夜中の五分前 Side-A」を読んだ。ちょっと時間短縮のためAmazon.co.jpからあらすじを拝借。

----- 小さな広告代理店に勤める僕は、大学生の頃に恋人・水穂を交通事故で失い、以来きちんとした恋愛が出来ないでいる。死んだ彼女は、常に時計を五分遅らせる癖があり、それに慣れていた僕は、今もなんとなく五分遅れの時計を使っていた。最近別れた彼女から、「あなたは五分ぶん狂っている」と言われたように、僕は社会や他人と、少しだけずれて生きているようだ。
 そんな折り、一卵性双生児の片割れ「かすみ」と出会う。「かすみ」と「ゆかり」は、子供の頃、親を騙すためによく入れ替わって遊んでいた。しかし、それを続けるうち、互いに互いの区別がつかなくなってしまったという。
 かすみは、双子であるが故の悩みと失恋の痛手を抱えてていることを、僕に打ち明ける。
 そんな「かすみ」を支えているうち、お互いの欠落した穴を埋めあうように、僕とかすみは次第に親密になっていく――。-----

ちょっとこのあらすじ、ネタバレが過ぎる気がするんだけど、ストーリーよりも文章が面白いのでいいのかもしれない。そう、この作品、プロットでもうわ、っと驚く部分が数箇所あるんだけど、それよりも独特の文体で、非常に読ませる。たまーに妙に文章や登場人物で遊んでいる感があって、それがまた笑わせる。全体的にコメディ色なんてまったくなくて、始終シリアスな空気というか、なんだか澱んだ雰囲気を感じさせる話なのに。登場人物の会話がリアルなのかもしれない。主人公は結構暗い男だけど、ウィットというものを解する男だ。こいつの台詞がいちいち気が利いてて面白かった。最後も結構感動的でした。

読み終わって、ネット上で他の人はどう評価しているのかサーフしてみたら、なんと対になる「Side-B」があるという。そういえば「Side-A」って書いてある。気にもとめてなかった。これを貸してくれた人は「Side-B」持ってるだろうか・・・
続きというより、裏話、のような感じと言ってる人もいたので、売り方として、「冷静と情熱のあいだ」のようなものなんだろうか。こういう売り方に特徴がある作品は、プレゼントとかにし易いかも。僕の「冷静と情熱のあいだ」も友人(shunrin)からのプレゼントだし。

これ、凄く影響を受けたとか泣いたとか、そういうインパクトは無いんだけど、凄く楽しめた作品だったんです。だから次が早く読みたい。

April 18, 2004

The Music of Chance

ポール・オースター著、「偶然の音楽」を読んだ。原題「The Music of Chance」

musicofchance.jpg

何気なく暮らしていた消防士が、ある日突然大金を手にしてしまい、生活を捨ててただ車を走らせるだけの無目的の旅に出てしまう。やがてその大金も尽きる頃、一人のギャンブラーの若者と出会い、残った金を彼に賭けて大富豪とのポーカー勝負に挑むことになるのだが・・

という話。

面白い。アメリカ文学は3年ほど前にKurt Vonnegutの「Time Quake」を読んで以来か。ポール・オースターという作家は聞いたことがなかったし、友人に勧められて軽い気持で手にとったのだが、これは深い。会話がぎこちないと感じたり、ギャンブルという題材が俗っぽいと感じたりしたが、ストーリーテリングが絶妙ですぐにそういったことを忘れさせる。

生きる意味とか、信頼、人間の悪や安らぎといったことを考えさせられた。

April 16, 2004

細雪

谷崎潤一郎、「細雪」を読んだ。

sasameyuki.jpg

三月上旬から読み始めて、ゆっくり、まる一ヶ月かけて読んだ。

この本は、オハイオのミドルスクールで一緒で、高校の一年間と、大学の一年間を日本に留学しに来たアメリカ人の親友から貰ったものだ。大学は早稲田大学に留学してきて、日本文学を専攻していた。彼は下手したら自分より日本文学読んでいたかもしれない(もちろん原文で)。やたら詳しかった。ある日なんかの話の拍子に、「谷崎読んでないの?じゃあ丁度二冊持ってるやつがあるからこれあげるよ」といって、貰ったのだった。

細かい字で上、中、下巻とあって、旧漢字で、旧仮名遣いで、登場人物の会話が全て関西弁で、せっかく貰ったので、と一年前に初めて読み始めた時は読みづら過ぎてすぐ挫折してしまった。

けど今回読み始めた時は、粘ってちゃんと読んでやろうと意気込んだ。内容が、一家の生活の様子を淡々と追っていくだけの小説に見えたので、この長さを読みきることができるかな、と不安に思いながら読み進めた。

旧字に慣れて、登場人物の像を把握してくると、意外にもはまっていってしまった。

舞台は昭和十年代なのだが、それを忘れると1980年代頃の話にも聞こえてきてしまいそうなほど、戦前の暮らしというものが近代的であることに驚かされる。歴史の授業などで戦前は大分近代化が進み、西洋の影響も浸透していて豊かな暮らしだったと聞いていたが、このように日常の風俗を細かく描写されたものを読んで初めてその史実を実感した。

神戸の元上流家庭の四姉妹が、かつての栄華を名残惜しみながら中流の生活のなかで様々な出来事を経験していく話。中流と言っても、家にお手伝いが何人もいたり、ただ実家に帰省するのにも世間体を憚ってもっともな口実が必要だったり、夜な夜なシャンパンを空けたりとかなり贅沢な暮らしをしているのだが、それをさらに上回るクラスがあったのだろう。

登場人物も悉くリアルな存在感を放っていた。

長女鶴子は割りと脇役なのだが、四十歳近くなっても若々しく、行動は遅いが常に妹達を気遣っている。
次女幸子は主人公の一人で、常に三女の雪子が早く嫁に行けるように走り回っている。姉妹の中でも雪子に対して一番愛情を持っている、と告白する下りは美化されすぎないリアルな家族愛のカタチをかんじさせる。
三女雪子は、もう一人の主人公で、三十過ぎて婚期を逃している純日本風の美女で、外見は二十代前半にしか見えないという。引っ込み思案で暗い言われることもあるが、古来からの日本人女性の理想像を体現しているかのような女性で、この雪子の幸せを願いつつ、雪子が誰のものにもならないで欲しいとも思えてしまうところがこの小説の一番面白いところかもしれない。
末っ子の妙子は「モダアンガール」と言われ、常に洋服を着こなし、暇なときには「ヴォーグ」を読んでいたりする。裏があり、トラブルメーカーでいつも皆に迷惑をかけるが、その度に家族の絆が深まったりもする。
唯一の男性メインキャストの貞之介は次女幸子の婿で、彼から物語が語られる場面も多い。血は繋がっていない義理の姉妹達のために奔走する姿が非常に印象的。どうやら谷崎の視点はこの貞之介にあるようで、こんな風にモデルとなった四姉妹を眺めていたのだなと思うとまた面白い。

毎回の出来事のたびになんだかんだ言って家族がいかにお互いを思いあっているかが伝わってきて心が温まる。
気分的に毎日NHKの連続テレビ小説を見ている感じだった。「今日はどんなことが起こるんだろう」と気楽に少しずつ読みたくなる。まさに最近の自分にとって最高の癒し系文学となった。

細雪の芦屋を歩く」 文学散策なんかのレポートをする東京紅団のページ。

こういうのすごくやってみたい。

March 07, 2004

人間失格 -"BiBlio Log"

太宰治、「人間失格」を読んだ。

ningenshikkaku.jpg

なぜか今まで太宰文学を避けてきたのだけど、読むものがなくなって本棚にあるこの未読の一冊を手にとった。走れメロスはすすんで読んだし、むしろ楽しんで読んだくらいなので太宰が嫌いなわけではない。まぁとにかく食わず嫌いは良くないなと思って前向きに読んでみた。

思ったよりも暗くない。暗くないけど、侘しい。人間が嫌いなのか、人間を何とかしたいのか、所謂「世の中」に対しての凄まじい批判が全編を通して感じ取れる。

文章は何故かとても好感がもてた。今度「斜陽」か「富嶽百景」を読んでみようかな。

自殺の直前の作品っていうのがだめなのかも。

March 04, 2004

Good to Great -"Biblio Log"

「ヴィジョナリーカンパニー2、飛躍の法則」を読んだ。

visionary2.jpg

バイトで依頼される資料作成の参考文献として読んだのだけど、これが非常におもしろい。ビジネス書だけど、人生一般に通ずるポイントが沢山含まれていた気がする。文中にも紹介されていたけど、スポーツチームなんかにはとくに応用が直接利く。いい本読んだな。

同じバイトの一環として以前「社長のための失敗学」を読んだけど、あれは分析が甘くてあんまためにならなかったな。

Voyage au centre de la Terre -"Biblio Log"

ジュール・ヴェルヌの傑作、「地底旅行」を読んだ。

under.jpg

偏屈な鉱物学教授とその甥が寡黙なアイスランド人猟師をガイドに地底世界へ冒険に出かける空想科学冒険小説。作中常にあらゆる幻想的な出来事に対して当時の科学知識でもって説明をつけようとしているところがおもしろい。当時から地球空洞説は否定されていたはずなのだが、それを知っている主人公たちが現実にその世界を目にして認めざるを得ない、ってな感じ。ほんとに夢があって大好きだ、こういう小説。人物描写も細かくて、序盤ストーリー展開がかなり遅いけど、伊達に150年近く読まれていない。随所に差し込まれている版画の挿絵も良かったし。

いい小説を読んだあとは気分が晴れるね。

February 10, 2004

金閣寺 -"Biblio Log"

三島由紀夫著、金閣寺を読み終わった。

kinkakuji.jpg

金閣寺を読むのは二度目。13歳の頃、文学に興味を持ち始めて家の本棚にある本を読み漁っていた中で一度読んだ。

読み始めると、初めて読む小説となんら変わらない新鮮さを感じた。9年前に読んだ、ということと、当時の自分の読解力の未熟さ、というものもあるだろうけど、それだけじゃない、恐らく何度読んでも発見の尽きない、そういう文章なんだと思う。

二度目読んで正解。素晴らしい。

January 30, 2004

風姿花伝 -"Biblio Log"

世阿弥著、風姿花伝を読んだ。原文と、解説と考察つきの文庫本両方。

この世阿弥という人、信じ難いほど人間を研究している。風姿花伝は14世紀から15世紀にかけて能の技術や精神をできるだけ後世に伝えるためにかかれたわけだけれども、現代においてもそのまま通じる普遍的な価値観をあちらこちらに読み取ることができる。能とは縁がない自分から見ても、参考になることばかり。とりわけ、人間を育成するための温かい考え方は今の日本の教育者に読んでもらいたいと真剣に思った。他にも、感動という現代科学でも十分な研究成果が出ていない感情に関する考察や、美とはなにか、ということに関する彼なりの結論など、当時の、というより彼の研究の質の高さが伺える。

備忘録に。
・稽古は強かれ、情識はなかれと也。
・時分の花をまことの花と知る心が、真実の花に猶遠ざかる心也。
・陰陽の和する所の境を、成就とは知るべし。
・一切の事に序破急あれば、申楽もこれ同じ。
・上手は下手の手本、下手は上手の手本。
・花は心、種は態(技)なるべし。
・花と、面白きと、珍しきと、これ三つは同じ心なり。
・秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず。
・因果の花を知る事。極めなるべし。

January 17, 2004

"Biblio Log" 世界の中心で愛を叫ぶ

愛車CR-Vに乗り込むと、ふと座席の上に、最近流行った小説、「世界の中心で愛を叫ぶ」
が置いてあった。

sekainochuusin.jpg

CR-Vを最近姉に貸していて、以前その姉が持っているその本を
読んでみたいと洩らしていたから気を利かせてくれたのだろうか。

そのまま手にとって読んでみると、中々読みやすくて一気に最後まで読む。
気付くと、一時間半経っていた。

テーマは恋人の死と残された少年の再生。たしかに綺麗な話だった。(綺麗過ぎる、
とも言える)
ストーリーといったほどの展開もなく、単純でストレートだ。だけど単純で分かり
易いだけに、こっちも哀惜を感じ易い。悲しい話は、読んだ後に重く残ることが
多いから、好きじゃない。

January 13, 2004

"Biblio Log" 燃えよ剣

年末、司馬遼太郎の「燃えよ剣」を読んだ。新撰組を題材にしたあまりにも有名な
傑作。

moeyo.bmp

最近映画「ラストサムライ」を見たが、最後のサムライと聞いて思い浮かべるのは
やはり土方歳三以外にいない。

幕末の人物でこれまで自分が好きだったのは、北海道に独立国家「蝦夷共和国」を築
いた榎本武揚だったのだが、この作品の中では男になりきれていない、という印象だ
った。豪傑には違いないのだが、土方と比較されるためにどうしてもそういう部分が
目立ってしまうのだろう。

出世にも政治にも名声にも執着せず、ただ強さのみを求める土方の姿に感動する。
語り継がれている数々の武勇伝が本当ならば、過去400年で最も強かったのではないか
と思った。

また、沖田総司は土方より強かったというし、近藤勇も土方にせまる力量を
持っていたというから、3人が学んだ天然理心流という剣術に非常に興味を引かれる。

簡単に調べてみると、現在でも細々で伝承されているようだが、やはり当時のような
業は4代当主である近藤勇以来廃れているようだ。惜しい。

それにしてもこの「武士道」という美学、日本人の心に今も、形は様々に変わってい
ても、少しずつ残っているんだなということを実感する今日この頃。

次は新渡戸稲造著の「武士道」を読んでみたい。

December 09, 2003

"Biblio Log" for Design Study Session

研究会の輪読書として、5冊のソフトウェア工学関連の本を読んだ(うち自分が担当
した本は3冊)。自分の担当章はともかく、他人の章はあまり頭に入らなかった。

Where the Action Is Dourish著
wtai.jpg

シナリオに基づく設計 キャロル著
makinguse.bmp

ソフトウェアプロセス
soft.bmp

要求工学
RE.bmp

方法論工学と開発環境
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October 29, 2003

M's work at his university.

デザイン言語ワークショップJという授業で、オリジナルフォントの制作を行っている。

その制作過程の記録。

モチーフを探す。

もともと日本の伝統だとか風情だとか歴史だとかが好きなので、
漢字のようにメリハリのある格好のいいフォントを作ってやろうと考えていた。
しかし、少し調べるとその手のフォントは数期前の授業ですでに作られた方が
いたようなので、もう少し考えることにした。

もう一つの自分の好きな要素、「宗教」を加えてみる。

宗教っぽい文字、ということで最初に思い浮かんだのは、密教系の文字や
サンスクリット文字、もしくは梵字の類であった。

梵字の例
siddamsmp.gif

梵字は記号として眺めていても格好がいい。
しかしリサーチを続けていると、思わぬ文字に出会う。

日本の「神代文字」である。神道でいう初代神武天皇以前の神の世の文字。

神代文字の一種である出雲文字
izumoS.jpg

神代文字とは、漢字渡来以前に日本に元々から存在している超古代文字のことらしい。
漢字以前、しかもどうやら日本書紀や古事記に記されているような神話の時代から
伝わる文字だとか。これは、設定を聞くだけでいかにもロマンを感じさせる。これは
カッコいい題材になるぞ、と思い調べを進めていくと、どうやらことはそう単純な話では
なかったようだった。なんでも、現在の国語学の世界では「漢字以前に日本人は
文字を持たなかったとされており、しかも神代文字は神道の信者らがほんの数百年前
に偽造したという論拠が数多くある」と、偽モノであるという結論がだされている。
これを読んで、逆にこの怪しさがいいな、と梵字よりもフォントにするには味気ない
形をしているが、制作するオリジナルフォントのモチーフに決定した。

さて、神代文字と言っても数十種類ある。どの文字にしようかと文献を漁っていると
なんとも興味深い文献にあたった。「ホツマツタヱを読み解く」という本だが、これに
よると「神代文字とホツマ文字とは決定的に違う。前者は数百年前の神道の
関係者が自らの宗教の正当性のために偽造し、神社などのもっともな場所に
隠したものを後の考古学者が発見した、中身のない真の偽物だが、後者は
『ホツマツタヱ』という古事記以前の古文書に使われている文字で、その内容は
11万字に及ぶ五七調の大叙事詩で、優れた詩的感覚と漢字文書にはない
歴史記述が多く見られる正当な文字である」というものだった。これには、まだ
決定的と言える否定論が出ていないようで、もしかしたら、という気にさせる
一冊だった。一学生で素人である自分にこの真偽を議論するつもりは毛頭
ないが、「ホツマツタヱ」にある五七調の大和言葉の美しさと、語られている
壮大な日本立国のストーリーに多いに感動を覚えたので、この書物とコトバには
それ自体に充分な魅力があるな、と感じた。

よって、「ホツマ文字」を今回のプロジェクトのモチーフに決定した。

「ホツマツタヱ」に使用されている「ホツマ文字」
H0.jpg

ホツマ文字は、幾何学的な要素をあわせた文様をしており、母音と子音の要素を合体させて
音を作る。ハングル文字のような発想である。

ホツマの英語版を作るのは至難の業になりそうだが、古代日本の神秘的な感じが伝わる
作品にしていきたい。

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