Log No. 344

細雪

谷崎潤一郎、「細雪」を読んだ。

sasameyuki.jpg

三月上旬から読み始めて、ゆっくり、まる一ヶ月かけて読んだ。

この本は、オハイオのミドルスクールで一緒で、高校の一年間と、大学の一年間を日本に留学しに来たアメリカ人の親友から貰ったものだ。大学は早稲田大学に留学してきて、日本文学を専攻していた。彼は下手したら自分より日本文学読んでいたかもしれない(もちろん原文で)。やたら詳しかった。ある日なんかの話の拍子に、「谷崎読んでないの?じゃあ丁度二冊持ってるやつがあるからこれあげるよ」といって、貰ったのだった。

細かい字で上、中、下巻とあって、旧漢字で、旧仮名遣いで、登場人物の会話が全て関西弁で、せっかく貰ったので、と一年前に初めて読み始めた時は読みづら過ぎてすぐ挫折してしまった。

けど今回読み始めた時は、粘ってちゃんと読んでやろうと意気込んだ。内容が、一家の生活の様子を淡々と追っていくだけの小説に見えたので、この長さを読みきることができるかな、と不安に思いながら読み進めた。

旧字に慣れて、登場人物の像を把握してくると、意外にもはまっていってしまった。

舞台は昭和十年代なのだが、それを忘れると1980年代頃の話にも聞こえてきてしまいそうなほど、戦前の暮らしというものが近代的であることに驚かされる。歴史の授業などで戦前は大分近代化が進み、西洋の影響も浸透していて豊かな暮らしだったと聞いていたが、このように日常の風俗を細かく描写されたものを読んで初めてその史実を実感した。

神戸の元上流家庭の四姉妹が、かつての栄華を名残惜しみながら中流の生活のなかで様々な出来事を経験していく話。中流と言っても、家にお手伝いが何人もいたり、ただ実家に帰省するのにも世間体を憚ってもっともな口実が必要だったり、夜な夜なシャンパンを空けたりとかなり贅沢な暮らしをしているのだが、それをさらに上回るクラスがあったのだろう。

登場人物も悉くリアルな存在感を放っていた。

長女鶴子は割りと脇役なのだが、四十歳近くなっても若々しく、行動は遅いが常に妹達を気遣っている。
次女幸子は主人公の一人で、常に三女の雪子が早く嫁に行けるように走り回っている。姉妹の中でも雪子に対して一番愛情を持っている、と告白する下りは美化されすぎないリアルな家族愛のカタチをかんじさせる。
三女雪子は、もう一人の主人公で、三十過ぎて婚期を逃している純日本風の美女で、外見は二十代前半にしか見えないという。引っ込み思案で暗い言われることもあるが、古来からの日本人女性の理想像を体現しているかのような女性で、この雪子の幸せを願いつつ、雪子が誰のものにもならないで欲しいとも思えてしまうところがこの小説の一番面白いところかもしれない。
末っ子の妙子は「モダアンガール」と言われ、常に洋服を着こなし、暇なときには「ヴォーグ」を読んでいたりする。裏があり、トラブルメーカーでいつも皆に迷惑をかけるが、その度に家族の絆が深まったりもする。
唯一の男性メインキャストの貞之介は次女幸子の婿で、彼から物語が語られる場面も多い。血は繋がっていない義理の姉妹達のために奔走する姿が非常に印象的。どうやら谷崎の視点はこの貞之介にあるようで、こんな風にモデルとなった四姉妹を眺めていたのだなと思うとまた面白い。

毎回の出来事のたびになんだかんだ言って家族がいかにお互いを思いあっているかが伝わってきて心が温まる。
気分的に毎日NHKの連続テレビ小説を見ている感じだった。「今日はどんなことが起こるんだろう」と気楽に少しずつ読みたくなる。まさに最近の自分にとって最高の癒し系文学となった。

細雪の芦屋を歩く」 文学散策なんかのレポートをする東京紅団のページ。

こういうのすごくやってみたい。

Posted by 344 at April 16, 2004 01:15 PM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

この記事に対するコメント


コメントを投稿する










名前やメールアドレスを保存しますか?








この記事のトラックバックURL


この記事に対するトラックバック



Made with dreamweaverMade with fireworksPowered by Movable Type 2.661Powered by Wandering Wind