Log No. 344

March 2006

March 31, 2006

個人的な体験

kojinteki.jpg大江健三郎著、「個人的な体験」を読んだ。脳に障害を持って生まれてきた赤子を、母親と対面させる前になんとか死なせようともがく男の物語。暗く陰鬱な展開が続くのに、非常に読みやすかった。大江文学をまともに読むのは初めてなんだけども、その多彩で豊かな表現力にまず驚かされる。表現がいちいち凝っているので暗くとも飽きずにサクサク読み勧められたのかもしれない。ラストの展開には正直驚かされた。そんなバカな、と。そしてエピローグの蛇足。

でも、自分は所謂「後日談」が好きである。小説としては、スパっと切れたほうが威力があるのは分かる。読者に委ねる、ということが大きな意味を持つことも分かる。ご都合主義に過ぎたり、わざわざ加えるべきでない、ぬるくてどうでもいい話がエピローグに多いのも知っている(この作品でも、作品としてはこのエピローグはいらないだろ、とやはり思った)。だけども、それでも「後日談」を読みたい、という欲求には抑えがたいものがある。物語の世界観に入り込むあまり、どんなどうでもいい話でも、その世界の人々の話が知りたい、という欲求。物語の続きに救いを求めることを、こちらの解釈と想像だけに任せることは、ある意味旅立つ友人の先行きに対する気がかりを、想像だけで満足させるようなものだ。やっぱり、友人がどうしてるか、友人からの回答が少しは欲しいと思ってしまうのだが、文学にそれを求めるなということなんだろうか。

とにかく、僕はこの作品にある「後日談」は肯定的に受け止めているわけです。他にも似たモチーフで色々書いているそうなので、違うテーマの作品を読んでみたい。文章もつぼにはまったし、人に勧めたくなる作家です。

March 29, 2006

どこでも日本語入力

この前ネットカフェに入った際に、一緒にいた奴が日本語でメールを書きたいけど中国語環境だったので困ってて、その時に紹介しようとしたけど思い出せなかったサイトを覚え書き。

これは海外では本当に本当に、ほんとーに、便利。

Ajax を使った日本語 Full IME
http://chasen.org/~taku/software/ajax/fullime/

これがあれば、日本語環境がないPCでも問題なく日本語入力ができます。
ここで書いたものを、コピーして、メール作成画面とかに貼り付けるんだけど、Ctrl+Cだと上手くいかないので「編集」からコピーする点だけ注意。

いやーAjaxって本当にすごい。このツールを作ってくれた人にも感謝です。

March 21, 2006

The Human Stain

humanstain.jpgアンソニー・ホプキンズ、二コール・キッドマン主演、ロバート・ベントン監督作品、「The Human Stain(邦題:白いカラス)」を見た。プレビューで見たときから気になっていた一作。期待通りの重厚な人間ドラマだった。見終わってから知ったのだけど、原作はピューリッツァー賞を受賞しているらしく、読んだ人に言わせるとやはり小説版のほうが厚みがある話になっているとか。でもこの映画も十分見せてくれた。ホプキンズは見ての通り白人なんだけど、劇中の設定では彼は実は黒人の家庭に生まれていて、どういうわけか彼一人だけが白い肌を持って生まれてきたということになっている。その彼の苦悩を、養父の性的虐待、夫の暴力、自らの過失による子供との死別、というこれまた大変な苦悩を背負った女性(キッドマン)との出会いと生活から描いていくというプロット。キッドマンは34歳のジャニターという役柄で、みずぼらしい格好の粗野な女性を演じている。にも関わらず、その美貌がほとんど色褪せていないのが凄い(そしてちょっとリアルじゃない)。
原題は「The Human Stain」、劇中の直訳では「人間の瑕」とされているが、邦題の「白いカラス」ってのはちょっと俗っぽいけども主人公達の苦悩を端的に表していてなかなか秀逸だと思う。

それにしても役者の演技レベルがなんて高い作品だったろう。日本の俳優もこれくらいの演技見せてくれたらもっと邦画が面白くなるのにな・・

crazy weekends

大連に来て初めて結婚式に招待される。日本人の友人が会社の同僚の中国人の方と、この度めでたく結婚されたのだ。呼ばれたはいいのだけど、中国のしきたりがよくわかっておらず、何を持参したものかと周りの日本人や中国人に聞きまくる。やはり中国にもご祝儀の習慣があったようだけど、その相場がわからず困った。とりあえず500元を包んでみた。会はスイスホテルという大連の五つ星ホテルであったんだけど、会社の同僚を集めたアットホームなもので、途中日本からわざわざ来ていた新婦の高校時代の友人の方々によるピンクレディーの「ペッパー警部」のパフォーマンス等もあり、日本の結婚式のがちがちの段取りに比べるとかなりぐだぐだな感じではあったけども、会は終始笑いに満ちた温かいものだったように思う。

夕方結婚式を抜けて、大連の中小企業の有志で構成される「異業種交流会」の勉強会&懇親会に出席する。ここでは、日本人の会計士の方が毎回テーマを決めてレジュメを見ながら講義形式で色々な事を教えてくれる。今回の講義は「大連市の法人税について」だったのでかなり興味があった。以下覚書。
・減価償却の償却年数は会計法と税法で扱いが違う。会計法では自由に償却年数を設定できるようになり、利益の出る年には償却年数を縮めたりして利益の圧縮を図り節税ができるが、税法では依然として5,10,15年の規定の年数で償却しなければならない。
・2000元以下、耐久1年以上の場合、「低価格消耗品」という扱いになり、購入の当月に50%損金計上できる。
・交際費は、服務の提供を行う業者で年間総業務収入が500万元以下の場合、総業務収入の1%まで計上可能。
・欠損金の繰越控除は、過去5年間にまで遡り所得を補填することができる。(日本は3年間)

夜は男友達と3人でスタバでコーヒーを飲み、夜中に開発区へ友人主催のライヴの様子を見に行く。深夜料金なのでかなりのタクシー代になるかと思ったけど、相乗りタクシーを利用して開発区へ(普通に行くと7,80元のところ35元で済んだ)。小さなバーに100人くらいの人、主に日本人、が集まり、場はかなり盛り上がっていた。大連は狭いから、みんながみんな大体顔見知りだからだろう。僕は開発区に知り合いは少なく、知らない人ばかりだったのであまり盛り上がれなかったのが少し残念。ただ、ライブパフォーマンスは、大連でたまたま知り合った社会人バンドとしてはかなり良かった。greendayの「basket case」、「はじめてのチュウ」やプレスリーの「can't help falling in love」のパンクバージョン(ハイスタのバージョンかな?)、sex pistolsの「anarchy in the uk」など、パンクの懐メロライヴという感じ。ライヴというか、どこか学園祭のコンサートや、中高生の頃に地元の知り合いを集めて行っていたような内輪ライブという趣きを感じて懐かしくなった。途中、カンフーエンターテイナーのジャッキーさんのパフォーマンスが見られたのもよかった。短い演武だったけどもカッコよかったな。

翌日は開発区のナノテク企業で働くフランス人の友人とラーメンを食べに行く。同僚の出張者、同じくフランス人、も合流して3人でズーズーとラーメンを啜る。なかなか好評だった博多ラーメン味の蔵。フランス人から見る各国の人の特徴とか聞かせてもらって面白かった。真面目な経済談議では、興味深いことに彼らは日本こそが一番中国ビジネスを成功させる可能性があると話していた。どこまで本気だったのかは分からないけどもなかなか新鮮な話をいくつも聞けたのは収穫。

夜はまた近所の友人の部屋でビールを一杯飲んで帰宅。そういえばこの週末はあまり本を読む時間が取れなかったので、今週はちょっと平日頑張って読み進めよう。

March 15, 2006

Amebic

amebic.jpg金原ひとみ著、「Amebic」を読んだ。ストーリーはわりとどうでもいい作品なのであらすじは割愛。デビュー作で芥川賞を取った作家の第3作目。どこかで、小説家の真価は3作目で問われる、と読んだことがある。デビュー作は原体験やそれまでの貯金的なものを全て吐き出すようなもので、2作目は「1作目とは違う挑戦作」を書くことで、その人の残りのセンスが試される。そうなると、大抵の場合そこまででネタが切れ、3作目こそ作家として初めてまっさらな実力が試される、というような話だったと思う。金原氏の、その3作目。結構期待して読んだ。読み終わった後に、著者のインタビュー等を読んだが、本人曰く、「完璧だ、奇跡だ」だそうだ。ストーリー的にはなんてことないので評判はイマイチだが、個人的には共感、というか、言いたいことのなんとなく分かるような分かりたいような、そんな印象の作品なので、気に入った。特に、「皮膚も触覚も脳も思考も、全て分裂して自分自身が疎外され、隔離され、断絶されている感覚って、分からない?」 この感覚が非常によく分かる。説明しづらいが、似たような感覚に襲われる(まさに襲われるような感覚)ことが、稀にだけど確かにある。主人公は、なかなかいないようでよくいる、眺めている分には小気味いいほどの性格の悪さなんだけども、インタビューを読んで知ったところ、ほとんど著者本人の投影のような主人公だそうなので苦笑してしまった(作中の主人公はよくモデルに間違えられたりもする)。

また、珍しいな、と思ったのが、この小説、やたらと排泄のシーンが目立つことだ。小便や大便の用をトイレで済ますシーンが度々描かれる。生活を描く小説でも、なかなか描かれないシーン、だけども必ずあるはずのシーンなので、おっ、と思った。

短くて読みやすいけど、読了の満足感が得られるかは微妙なのでお勧め度としては「可もなく不可もなく」というところでしょうか。

March 07, 2006

ハゴロモ

よしもとばなな著、「ハゴロモ」を読んだ。

失恋の痛みと都会の疲れを癒すべく、故郷に舞い戻ったほたる。雪に包まれ、川の流れるその町で、これまでに失ったもの、忘れていた大切なものを彼女はとりもどせるのだろうか―。言葉が伝えるさりげない優しさに救われるときはきっとある。人と人との不思議な縁にみちびかれ、自分の青春をあらたにみつける静かな回復の物語。-「BOOK」データベースより-

hagoromo.jpg女友達の紹介で読んだのだけど、ちょっと気分じゃなかった。その人が感じた良さを自分は感じることができなったということが少し残念。

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