Log No. 344

September 2006

September 03, 2006

最後の息子

吉田修一著、「最後の息子」を読んだ。

新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。

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表題作は変わった作品だと思ったけども特に気に入るということはなくて、破片にしても同じような感想。この人の文章は軽くて好きなんだけども、この表題作は軽さのせいかはわからないが心に残らなかった。結構どうでもいい感じ。

ただ、「Water」という作品は素晴らしかった。ストレートなエンターテイメントで、爽やかな青春小説のお手本、と言っても良い位完璧な出来だと思った。同時にそれは誰でもかけそう、ということでもあるので、この作品を持ってこの作家が良いとは言いたくないが、やはりこんなにも心に響く情景を描いてくれたことには感謝しないといけない。内容は高校生4人組の水泳大会に向けた情熱と日常をリズミカルに描いていく。全国にいる高校生のなかでも最高級に幸福な部類に入る子達の話だけども、誰しもこんな時間は一度はあったんじゃないかとも思う。青春なんて言葉は言うのも恥ずかしいけど、たしかに青春って時期はあるんだと強制的に認識させられる力があった。久々に読後の余韻にどっぷり浸らせてもらえた作品だった。

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「フラれたとか?」
とおじさんが、声をかけてきた。ボクは返事もしないで運転席の後ろの席に座った。真っ暗な県道にぽつんと光るバスの中で、じっと自分の手を眺めていた。運転席に戻ったおじさんが、エンジンをかけながら、
「坊主、今から十年後にお前が戻りたくなる場所は、きっとこのバスの中ぞ! ようく見回して覚えておけ。坊主たちは今、将来戻りたくなる場所におるとぞ」
と訳の分からぬことを言っていた。
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