Log No. 344

August 2006

August 18, 2006

黄昏の岸、暁の天

小野不由美著、「黄昏の岸、暁の天(そら)」を読んだ。

登極から半年、疾風の勢いで戴国を整える泰王驍宗は、反乱鎮圧に赴き、未だ戻らず。そして、弑逆の知らせに衝撃を受けた台輔泰麒は、忽然と姿を消した!虚海のなかに孤立し、冬には極寒の地となる戴はいま、王と麒麟を失くし、災厄と妖魔が蹂躙する処。人は身も心も凍てついていく。もはや、自らを救うことも叶わぬ国と民―。将軍李斎は景王陽子に会うため、天を翔る!待望のシリーズ、満を持して登場。-「BOOK」データベースより

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NHKでアニメ化されているものを見て世界観に惹かれ、何人もの読書仲間に原作を読むことを勧められてようやく手にとった一冊。ファンタジーが今年のマイブームとなったきっかけでもあります。

東洋中世風ファンタジー、十二国記。現代の東京からこの異世界に迷い込んだ女子高生が、その世界の不思議な条理のために、王にされてしまうというお話のシリーズ。よく練られた世界観の設定があって、それを軸に様々な物語が構築されていく。所謂設定モノ、というやつだろう。

そして所謂ティーン向け小説。難しい言葉沢山出てくるけども、会話のテンポや展開なんかはマンガ的です。マンガが大好きな僕としては、こういうジャンルも割りとイケるようです。

・国の数は十二。
・それぞれの国には一匹ずつ麒麟が産まれ、その麒麟が天の意思を代行して王を選ぶ。
・王に選ばれた人間は永遠の寿命を得るが、王が道を失う(悪政を敷く)と麒麟が病気になり、麒麟が死ぬと王も死ぬ。
・王を失った国は天変地異と魔物で溢れ、国土は荒れる。
・次の麒麟が生まれ、その麒麟が王を見つけるまでは、誰も王として立つことはできない。
・十二の国は互いの国を侵攻してはならず、国際戦争は起こらない。
・王が善く国を治める限り、その国の繁栄は何百年でも続く。
・人は、それぞれの町に一本ずつ生えている特別な木に実る、木の実から産まれる。
・人間の寿命は、普通の世界と同じ限られたものだが、政府の高官になったり、仙人に仕える身になると、「仙籍」と呼ばれる戸籍に登録され、やはり不老となる。
・この「仙籍」は戸籍のようなものなので、除籍すれば普通の人間に戻る。

などなど、細かい設定には列挙の暇がない。これだけ細かい設定を世界に与えて、十二の国に様々な事情を持たせてあるのだから、いくらでも物語が書けそうだ。だけども、著者の小野不由美は、そのごく一部の物語を書いてしまって力尽きたかのように、シリーズを物語の途中で止めてしまっているようだ。この世界観はたまらなく魅力的なだけに本当に惜しい。

この「黄昏の岸、暁の天」も、壮大な物語のワンシーンでしかないのだが、この物語で触れられた複線も回収される見通しが立っていなさそうだ。物語としては完結しているのだけども、やはりここで語られていない真実がどうしても気になってしまうのが読者の心情というものでしょう・・・

本作単体だけで評価してもあまり意味ないとは思うけど、このタイトルだけに限って言えば、あまり優れた一作とは思えなかった。何しろ導入から物語後半まで、ほとんど話が進まない。主人公は同じような葛藤と回想を繰り返すだけで、事態は終盤まで何も進展しない。重要人物であるはずの麒麟も、その麒麟の物語だけで別のタイトルで描かれているからか、本作ではほとんど語られず、この一作を読んだだけではまず麒麟さんに感情移入ができない。そしてとにかく盛り上がりどころが無かった。いくつかあったとすれば、たまに目に付く登場人物によるながーい「お説教」くらい。あれを小気味いい啖呵と捉えるか説教と捉えるかが感性の別れ目なんだろうか・・・。物語や話の構成はよーく練られているんだけども、どうにも人間同士のやり取り、つまりドラマ部分に幼稚な雰囲気を感じてしまうのが気になって仕方なかった。冒頭にも書いたけど、「所謂ティーン向け」ということをやたら意識させられる小説だった。

なんか凄くけなしているような文章になってしまったけど、全体のお話としてはとても好きなんです、十二国記。いずれにしろやっぱりこの作品は「十二国記」という大きな作品の一章として楽しむべきだと思いました。だとしたらやっぱりこの「続き」もどうしても必要だと思うんだけどね・・・

August 07, 2006

火車

宮部みゆき著、「火車」を読んだ。

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

kasha.jpg一気読み!!!久々に寝る時間を忘れるほど夢中になって読み進めた。読了後は思わず天を見上げること数分。読み終わってすることが無くなったので、それまで2時間居座ったスタバを出てからも、胸を締め付ける感じがしばらく消えなかった。あのラストは読者を驚かせるけども、思えばあのラストだからこそこんなにも余韻が残るんだろうな。

ミステリーだから当然「犯人役」がいるんだけど、この人物がまた・・・感動や悲しみではなくて、同情で泣けてきた。巻末の解説で、解説者がごく自然に「ヒロイン」という言葉を使っていたけど、犯人役こそがまさにヒロインなのでした。

あとはネタばれ感想を追記に。

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August 06, 2006

閉じ込められた

部屋に、閉じ込められました。現在午前2時40分。

国際ビール祭り行って、たにひろばの部屋でかまいたち2やって帰ってきて、歯磨いて寝るぞーっと思って寝室に入ってドアを閉じたら、いつもとは違う「カチ」っていう音がしたかと思うと、もうそのドアは開かなくなっていた。

ドアノブをひねっても、何も起こらない。ドアは、開かない。

ドアノブを捻ると出たりひっこんだりする突起あるでしょ、あれが、全くドアノブと連動しなくなってる。しっかりドアの枠に食い込んだまま、ドアノブを捻っても空しく空回り。

さて、どうしよう。ロックドイン、リアルタイム進行中です。

寝室内にはドライバーとかなかったと思うし、どうやってこのドアノブをなんとかしようか。

雨漏りや隙間風のあるボロいアパートですが、こんなことは初めてだ。

今は凄く眠いのでとりあえず今日はこのまま寝て、明日いろいろ頑張ってみる。起きたらまずドアノブの構造をネットで調べてみよう。


あー腹減ってきたな・・・空腹で気力無くなる前になんとかしなくては。

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August 05, 2006

薔薇の名前

ウンベルト・エーコ著、「薔薇の名前」を読んだ。

中世、異端、「ヨハネの黙示録」、暗号、アリストテレース、博物誌、記号論、ミステリ…そして何より、読書のあらゆる楽しみが、ここにはある。全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書。伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。-「BOOK」データベースより

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ようやく読み終えた、大作「薔薇の名前」。ウンベルト・エーコと言えば記号論の大家。僕自身は、文学専攻でもないのに何故か履修していた記号論の講義で散々引用されていて知った。文学部の友人に言わせると、般教でも名前が出てくるくらい有名な学者とか。で、その学者が小説を書いていて、しかもそれが大変な傑作だと聞いた時からずっと読みたいと思っていた。イタリアやフランスで最高の文学賞を取ったとか、全世界で1000万部以上売れてるとか、最高のエンターテイメントにして芸術、とかあらゆる書評でベタ褒めされていた。上下巻で4000円と学生にはなかなか手を出しにくい小説だったが正月に古本屋で状態の良いのを買えた(それでも2500円したけど)。そして、最近まで積読本の山に埋もれていて、今日ようやく読み終えた。

結果は、確かに凄かった。凄かった、が・・・巻末の訳者あとがきや、読書家の書評などを読んでみて、自分が面白さの10分の1も体験できていないように思えてショックを受けた。この小説、ストーリーの筋書きそのものもミステリーとして非常に凝っていて面白い。物語の背景であり随所で問題になる当時のキリスト教世界内の軋轢や当時の人々の宗教観などが細かくて興味深い。1300年代を舞台に設定している時点で読書経験の浅い僕には新鮮だったのだけど。でも、著者はストーリーは単なる道具として利用しながら、この作品を通して色々面白いことをやってるみたいなんだけど、それが部分的にしか分からなかった。

例えば「書物の中の書物」というキーワードが出てきた時も、ボルヘスの「伝奇集」(未読)を思い浮かべたが、やはり読んでおいたほうが良かった。他にも、ダンテの「神曲」(これまた未だに読んでない・・)を初めとするその他のヨーロッパ文学の必読書のようなものを読んでいると、この辺のしかけは気付きやすかったんだと思う。この作品に触れるのが、どうも早過ぎたようだった。あと500冊くらい本を読んでからこの本に辿り着きたかった。問題は、僕は訳者に作品の味を損ねられるのが嫌で、翻訳モノを読むのを敬遠するきらいがあるから、海外文学をあまり読んでこなかったという点。それがこんな形に裏目に出るとは・・・原著で読むとしても、せいぜい英語の作品しか読めないわけだけど、ヨーロッパの偉大な作品の多くは本作も含めて英語ではない。うーん、ヨーロッパ言語を自在に読めるようになってみたいと初めて思った・・・名訳!というのがあったら是非お勧めを教えて欲しいです。

今回の件で、何故自分は日本に生まれなかったのかと泣いて悔しがるというアメリカのジャパニメーションオタクの人々の気持ちが少し分かった気がする。

とにかく20年後くらいに読み返してみたいと思わされた作品。読書歴に自信のある方、もしくは文学の構造分析などが好きな人にはお勧め!!

August 02, 2006

孤高の人

kokounohito.bmp新田次郎著、「孤高の人」を読んだ。山岳小説というジャンルらしいが、とにかく大正から昭和初期にかけて生きた不世出の登山家、加藤文太郎の生涯を綴った物語。こいつは本を読まねーだろー、と思ってた友人から誕生日プレゼントとして贈られたんだけど、これは、やられた。稀にしか出会えないレベルの読み応え。ちょっとそいつを見直した。

この小説には、目の前にあるように美しく厳しい山頂の風景、孤高であろうとしても振り払えない人と触れ合うことへの渇望、そして人と触れ合えた時の喜びが、ふんだんに描かれている。孤独であろうとする心と、人との繋がりを求める心との葛藤にひどく共感した。物語の最後は、プロローグですでに予言されている通りに文太郎の死で幕を閉じるんだけど、そのあまりの壮絶な人生と、彼を待つ人のことを想って、読了後しばらく放心してしまった。

読み終わってこれが実在の人物(実名)の物語と知ってさらに驚愕。強烈な小説でした。激しくお勧め。

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