宮部みゆき著、「火車」を読んだ。
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

ミステリーだから当然「犯人役」がいるんだけど、この人物がまた・・・感動や悲しみではなくて、同情で泣けてきた。巻末の解説で、解説者がごく自然に「ヒロイン」という言葉を使っていたけど、犯人役こそがまさにヒロインなのでした。
あとはネタばれ感想を追記に。
途中から刑事も読者も、許されざるべき殺人犯の彼女に、どうも惹かれていっているはず。僕も、図書館で必至に父親の死を願いながら官報をめくる姿に涙がこみ上げてきた。誰かが凄く彼女をかばったり、同情的に描かれているわけではないのに、どうしようもなく肩入れしたくなる人物。こういう人物を描けただけでも成功した作品だ。
しかしあのラストにはホントにやられた・・・一番楽しみにしていた彼女の肉声を、結局一度も聞くことはできなかった。(そういう演出のために、最後の「こんにちは」もどちらの発言か判らないように書いている)
物語のアンタゴニストであり、ヒロインでもある最重要人物が、人々の思い出の中を除いて作中一度も喋らず、姿を現したのも最後のほんの一瞬。彼女を前にしてどんな展開が起こり得るんだろうか、と、作中の刑事さながら聞きたいことを溜めに溜めていた読者には凄まじい裏切りだ。
でもやっぱりあそこで終わるから、あとは全て読者のモノになるんだ。語られるべき事実は全て語られていて、あとはどんな「気持ち」が、どんな真実があったのか、想像に難くないけど、決して想像できない、彼女の物語に想いを馳せる楽しみ。
ホントに、偉くて凄い、大傑作でした。
Posted by 344 at August 07, 2006 07:54 PM | コメント (0) | トラックバック (1) | Clip!! | Edit
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