Log No. 344

大連ビジネス。(あるアニメ制作会社の場合)

友人のY嬢が、政府の外資誘致部門からアニメ産業集積地管理部門へ転属したので、そこへ見学も兼ねて遊びに行った。

大連市は、日本企業等の生産工場の集積地区である開発区や、全国で五つある国家ソフトウェア輸出基地の一つに指定されているソフトウェアパークと言った、重点的にある産業を支援する政策で、それぞれの産業の成長を牽引している。現在ソフトウェアパークの第二期のプロジェクトエリアが建設中らしいが、ソフト開発、BPO(business process outsourcing)産業に続いて大連市が支援を開始した産業が、「アニメ・ゲーム」産業である。ハイテク区内にあるこの国家アニメ産業基地には、アニメ制作会社、ゲーム制作会社、CG制作会社の他に、それらの会社へ就職できる人材を輩出する専門学校も入っている。日本ではアニメ・ゲーム業界は下積み時代を辛い給与条件で過ごさねばならないらしいが、こちらではこれらは高給な仕事のようである。お昼時に見学に行ったので、若い人たちがぞろぞろと仕事場から出てくるところだった。

Y嬢によるとまだこの集積地に企業が入り始めて間もないらしいが、Y嬢の日本でのホームステイ先のお父さんがアニメ制作会社を経営しており、その人もこの集積地に合弁企業を立ち上げたという。大手商社での中国ビジネス経験豊富な先輩が中国という市場を「惨憺たる屍の山」と評する様に、大連でも多くの日本企業が失敗している。僕が大連に来て始めに籍を置いた会社も解散の憂き目にあっているし、僕が大連に来るきっかけとなった方の会社も、先月で撤退を余儀無くされている。そんな中アニメ制作という成功例をあまり聞かない分野での進出とあって非常に興味を持った。たまたまその経営者の方が大連に出張中だというので、Y嬢に紹介してもらい、会って頂けることになった。

有限会社ハルフィルムメーカー
春田克典氏

フラマホテルのロビーで合流し、四川料理屋へ。こちらから面会をお願いしておいてご馳走になってしまい恐縮だったが、食事の間の2時間、たっぷりお話を聞くことができた。驚くべきことに、彼にとって今回の合弁は初めてではなく、もうかれこれ14年ほど、大連でビジネスおを行なってきていたらしい。中小企業が、大連で14年間存続する。しかも、成功しているが故の新展開として、新たに合弁企業を立ち上げるわけだ。そして最も驚嘆に値するのが、「日本から仕事を振ったことは一度も無い」という事実。つまり、コストカットを目的に中国に進出しているのではなく、14年前から、純粋に中国向けの中国オリジナルアニメ作品を作り、売上を上げることを目的に行なわれているビジネスだというのである。

この方の説明によると、「確かに中国に日本アニメのファンはいるが、それはそういったものが中国に無かったから日本のアニメを見ているに過ぎない。中国人には、もっとみたいアニメがあるかもしれない。それを中国で、中国人のためにつくってこそ、中国でのアニメの発展がある」そうだ。そして、地元の有力な放送局と組み、実際に成果を上げている。実に頭が下がる発想である。中国側スタッフに対する愛情も感じることができた。実際にこの方の経営者としての先見性は広く認められているようで、日本の経済産業省や、フランスの文化庁等も、この方に協力を仰いでいるとか。日本のアニメ業界は慢性的な制作費の低迷の問題等で非常に苦しい現状にあるらしいが、それも彼曰く「はじめからターゲットを世界50カ国にすれば、市場規模は20倍、今の5倍程度の予算を取り付けることなど容易い」ということで、彼は実際に世界相手に十分な制作費で制作を行なっているという。小さな会社でも、大きなことをできるという希望を体現している。また、他にも、原作モノではなくオリジナル作品を多く成功させることで、製作者達に権利料等で収益を還元できるようにする、など、業界構造の問題等にも具体的な方策で取り組んでいる、まさに経営者だと感じた。

物腰も柔らかく、僕のような若造相手にも説教のようなことをすることなく、僕の意見や質問にも丁寧に応えてくださった、爽やかな方だった。次回に会えるのは何ヶ月か先になりそうだが、またお会いして、いろいろと吸収したい。

「モノやアイデアはコピーできても、その発想力をコピーすることはできない。発想力そのものが財産であるコンテンツビジネスに、コピーを恐れる必要はない。」 - 春田氏

WEBアニメスタイル;春田氏インタビュー
バンビジュ、ハルフィルム 欧州企業と共同制作(10/17)
アニメに憧れる中国の若者達
日本のアニメ制作現場の窮状

Posted by 344 at October 26, 2005 06:06 PM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

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