Log No. 344

空色勾玉

荻原規子著、「空色勾玉」を読んだ。

国家統一を計る輝の大御神とそれに抵抗する闇の一族との戦いが繰り広げられている古代日本の「豊葦原」。ある日突然自分が闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられた村娘の狭也は、あこがれの輝の宮へ救いを求める。しかしそこで出会ったのは、閉じ込められて夢を見ていた輝の大御神の末子、稚羽矢。「水の乙女」と「風の若子」稚羽矢の出会いで変わる豊葦原の運命は。

福武書店版の帯の文句がなによりもこの本の世界を物語る。
「ひとりは「闇」の血筋に生まれ、輝く不死の「光」にこがれた。 ひとりは「光」の宮の奥、縛められて「闇」を夢見た。」

不老不死、輪廻転生という日本の死生観や東洋思想とファンタジーの融合をなしえた注目の作品。主人公2人の成長の物語としても、その運命の恋を描いた恋愛小説としても、一度表紙を開いたからには最後まで一気に読ませる力にみちている。中学生以上を対象とした児童書ではあるものの、ファンタジー好きの大人の読書にも耐えうる上質のファンタジーである。-amazon.co.jpの商品説明より

sorairomagatama.jpg最近ファンタジーがマイブームです。良質のファンタジーを求めてる時に友人に紹介してもらったのがこの作家。ファンタジーといえばやはり「剣と魔法」の世界観で、当初はやはりそういうものをイメージしていたのだが、こういう日本の古代とか、剣とか勾玉とかってキーワードに元から弱いので食いついてみた。

世界観は大胆にも日本の神話時代。古事記とかに出てくるような時代。登場人物は名前こそ違うものの、明らかにアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三貴士がモデルだ。日本風のファンタジーときたら、陰陽師系やもののけ姫のような八百万の神々と言ったモチーフなら触れたことがあったけど、この三神をキャラクターとして動き回らせるような物語には触れたことがなかった(スサノオはわりとお話しになりやすい伝説が残ってるので別だが)。それだけに凄く新鮮で、心躍らされた。日本神話には特別な思い入れがあるのです。

物語は会話中心でさくさくと進み、読み手をぐいぐいと引き込む。盛り上げどころの描写が少々物足りないと思わないでもないけど、クライマックスの迫力は申し分なかった。そこでそれを出しちゃうのか、と。

登場人物は、輝の大御神(イザナギがモデルと思われる)を崇める光の軍勢=神の軍団と、闇の大御神(同じくイザナミ)に守られる闇の軍勢=人間の勢力とに別れて戦う。面白いのが、ヒロインは闇の側につき、闇=人間として、神に歯向かおうという、光対闇の対立で読者の共感を闇に置こうとしているところ。イザナミは古事記でも黄泉の国の支配者とされ、闇はそのまま死を指し、この物語はしいては死の肯定、限りある時間の肯定、そして有限の時間の中でこそ人間は情を知る、という生の肯定を根底のテーマとして据えているように読める。児童文学らしい、読後に前向きな気持ちにさせてくれる一冊だ。

3部作らしいけど、とりあえずこの話はこの一冊で完結しているので、今は他の作品にどんどん触れていこうと思います。

Posted by 344 at July 09, 2006 01:55 AM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

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