Log No. 344

煙か土か食い物

舞城王太郎著、「煙か土か食い物」を読んだ。

腕利きの救命外科医・奈津川四郎が故郷・福井の地に降り立った瞬間、血と暴力の神話が渦巻く凄絶な血族物語が幕を開ける。前人未到のミステリーノワールを圧倒的文圧で描ききった新世紀初のメフィスト賞/第19回受賞作。-「BOOK」データベースより

smokesoilorsacrifices.jpg
舞城小説三冊目。阿修羅ガール(2003/01)世界は密室でできている(2002/04)→煙か土か食い物(2001/01)、と発表順で言ってだんだんと遡って読んでいるわけだけど、彼は最初からぶっとんでいた。今回のがデビュー作。色々と凝った試みを見せていた阿修羅ガールに比べると、この作品はエンターテイメントど真ん中という感じで、一ページ目からラストまで落ち着くことなく一気に読者を引っ張っていく。読書はおっくうとか、面白い部分に達するまでに飽きてしまう、という人でもこの人の作品ならどんどん読めるんじゃないだろうか。

この作品、書店等のジャンルではミステリーと位置づけらるんだろうけど、実際はミステリー風の全く異質なものだ。途中で犯人が誰とかどうでもよくなってくる。誰かがアマゾンのカスタマーレビューでうまいことを書いていた。

"ゴッド・ファーザー"がマフィア映画というジャンルでくくられがちだがその辺は単なる舞台設定に過ぎなくて実は「家族」の物語だったんだ…と実際に見ればすぐ分かるように、これも読み始めてすぐ、「あっこれもしかしてミステリじゃありませんね?」と気付く。

記事最上部に引用した紹介文にもあるように、多分に暴力と狂気がフィーチャーされた物語だけども、ミステリーの基礎である殺人事件の謎と過剰なまでの暴力をとりはらったら、残るのは家族の物語。そしてその極めて凄惨でアンリアルな家族模様を取り払ったら、残るのはとっても真面目でまっすぐな、そして極めてリアルな愛情の物語のはずだ。こんなに狂った話で、最後にうるっとさせられるとは思わなかった。これは、「世界は密室でできている」でもやられたパターンだ。この人の描くキャラクターの温かさになぜか胸を打たれる。

この本を読むには、まずこの人の乱暴な口語調の文体を受け入れられなくては辛いと思う。句読点も改行も少ないし、なによりそもそも著者がこの作品を書き上げる動機となっていそうなほどに、これまでの小説上のルールを破りまくっている。謎を推理するのではなく、謎が現れた瞬間即座に脈絡なくひらめく、とか、第一人称なのに現在進行形で書かれたりする、とか。正統的な小説に読みなれている人には読みづらいことこの上ないでしょう。でもそれを受け入れられたら、きっと好きになってもらえそうな気がします。

ところで、この舞城王太郎を世に出した、「メフィスト賞」ってのがどんな賞なのか気になったので調べてみた。すると、結構有名な作品がちらほら。未読だけど、森博嗣の「すべてがFになる」、殊能将之の「ハサミ男」なんてのはよく名作として耳にする。西尾維新もメフィスト賞出身だったとは驚き。最近少々首を突っ込んでみたライトノベルの世界で、時代のエース的扱いをよく受けてる人だ。受賞作の「クビキリサイクル」もこの前友達が読んでたな。でも他の歴代の受賞作とその簡単なレビューなんかを見てみたけど、なんか、結構微妙だ。あたりはずれが激しそうな印象。選考を、ファウストっていう小説雑誌の編集部内だけで行ってるらしい。「独断と偏見で」というやつ。でも、その独断と偏見の変な基準から、この才能を見出した。今では、ライトノベルというジャンルも、ミステリーというジャンルも超えて、芥川賞候補に挙がり、三島由紀夫賞に輝き、今度は小説家という枠を越えてマンガや映画製作に乗り出している。ジャンルとかほんとどうでもいいと思わせてくれる。こんな変な人を出すんだから、きっとすてた賞じゃないんだろう。そのうち他の受賞作にも手を出してみよう。

Posted by 344 at July 09, 2006 02:14 PM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

この記事に対するコメント


コメントを投稿する










名前やメールアドレスを保存しますか?








この記事のトラックバックURL


この記事に対するトラックバック



Made with dreamweaverMade with fireworksPowered by Movable Type 2.661Powered by Wandering Wind