Log No. 344

不自由な心

白石一文著、「不自由な心」を読んだ。

大手企業の総務部に勤務する江川一郎は、妹からある日、夫が同僚の女性と不倫を続け、滅多に家に帰らなかったことを告げられる。その夫とは、江川が紹介した同じ会社の後輩社員だった。怒りに捉えられた江川だったが、彼自身もかつては結婚後に複数の女性と関係を持ち、そのひとつが原因で妻は今も大きな障害を背負い続けていた…。(「不自由な心」)人は何のために人を愛するのか?その愛とは?幸福とは?死とは何なのか?透徹した視線で人間存在の根源を凝視め、緊密な文体を駆使してリアルかつ独自の物語世界を構築した、話題の著者のデビュー第二作、会心の作品集。-「BOOK」データベースより-

fujiyu.jpg読んで楽しい小説ではなかった。生々しい話であるからというのもあるだろうけど、著者が読者のためにこの作品を書いていないからかもしれない。5つの作品を収録してあるのだけど、どれもその辺のどこにでもいそうな、ちょっと仕事ができて人並みに女性付き合いのある、ごく普通のサラリーマン達が主人公。彼らの仕事内容等に関する設定も細かくて、会社人というのはこういうものかと思わせるリアルさがある。そして、リアルがゆえに、重苦しい。冷めた夫婦愛、親子愛、不倫、社内の派閥、親の看護、死、転属、リストラ、etc。30代や40代の日本人男性は、みんなこんなにも鬱屈したものを抱えて生きているのかな、と。だけど、やはりその日本人サラリーマンの誰もが思うであろう、その時続けている生活の是非、自分の人生の意味への問いかけ、人間の心の本当の裡、そんなものを真面目に真面目に描いている。女性には不愉快に思える内容かも知れないけど(男の身勝手さが男の言い分でこれでもかというほど描いてある)、それだけに、今の日本の中年の男女関係を考えるにあたって読んでよかったと思った。特に表題作のインパクトは大きかった。特に、死に対する考察。人間は最も愛する人の死によって、死の恐怖と生への執着から解放される、というもの。したがって、愛する人への最も尊い行動は、その愛する人の腕の中で死んであげることだと。主人公がこの考えに至るまで色々あって、簡単に共感はできないのだけども、深く、考えさせてくれた。

読むなら、表題作だけじゃなくて、初めから通して読んだほうがいいと思うけど、途中で辛くなるかも知れないのであまりお勧めはしない。

Posted by 344 at February 08, 2006 02:10 PM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

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