Log No. 344

阿修羅ガール

舞城王太郎著、「阿修羅ガール」を読んだ。

好きでもないクラスメートの佐野明彦となぜか「やっちゃった」アイコは「自尊心」を傷つけられて、佐野の顔面に蹴りを入れ、ホテルから逃げ出す。翌日、佐野との一件で同級生たちにシメられそうになるアイコだが、逆に相手をボコって、佐野が失踪したことを知らされる。佐野の自宅には切断された指が送られてきたという。アイコは、思いを寄せる金田陽治とともに、佐野の行方を追うが…。
同級生の誘拐事件、幼児3人をバラバラにした「グルグル魔人」、中学生を標的とした暴動「アルマゲドン」。謎の男・桜月淡雪、ハデブラ村に住む少女・シャスティン、グッチ裕三に石原慎太郎。暴力的でグロテスクな事件とキャラクターたちが交錯する中を全力疾走するアイコの物語からは、限りなくピュアなラブ・ストーリーが垣間見えてくる。純文学やミステリーといったジャンルを遥かに飛びこえた、文学そのものの持つパワーと可能性を存分に味わっていただきたい。(中島正敏) -amazon.co.jpのレビューより抜粋-

ashuragirl.jpgこれは凄い。途中まで読み進めて、一旦休憩に本を閉じた時、「これは小説を超えている」と感じた。
ある思想の表現、真実の探求が言語芸術の機能だとしたら、コレは間違いなく高品質の芸術だ。語彙の少ない女子高生の口語調という所謂「純文学」的とは程遠い奇抜な文体を指してこの作品が偉い、ということではく、純粋にアイコの他愛ない思考、幼稚な行動で人間の真実をふんだんに描ききるという技術とセンスとメッセージ、その美学。似たようなものを、綿矢りさの「蹴りたい背中」を読んだ時にも感じたけども、こちらはさらにぶっとんでいる。
そろそろ現れると思っていた、「2ch」を代表とするネット上の匿名集合体社会の、そのリアル社会とそこに生きる個々人への影響力をしっかり取り上げた作品だということも特筆に値する。
文学の力を味わうには今ある最先端の作品の一つだろうということで、超お勧めします。

以下、印象深いパッセージをいくつか。

・減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。

・自分を犯した変態の股間を銃で打ち抜いてからその人はブルース・ウィリスに「アーユーOK?」とか訊かれて「アイムプリティファッキンファーフロムOK」って答える。アイムプリティファッキンファーフロムOK。変なボール口の中に入れられて無理矢理変態にお尻を犯されたらそれはやっぱりそうだろう。アイムプリティファッキンファーフロムOK。「OK」なんかからは程遠いんだろう。あの黒人の人はホントに可哀想だ。
でも私は?
私はOK?
うーん。
うん、OK。
少なくともまだ、私はアイムプリティファッキンファーフロムOKって感じではない。
私はとりあえず顔射も口の中でドピュドピュゴクンも中出しもプリズンエンジェルも避けられたのだ。
うん、OK。
これまでの人生の中で一番最高の時って訳じゃないし正直辛いけど、でも大丈夫。私はまだまだやってける。

・正直な物言いだね陽治。なかなか人が言わないことだけど、ホントのこと。人の親切心にも同情心にも、その人なりの限界・境界があるってこと。誰かが物凄い苦痛を感じてのた打ち回っていても、それが遠い場所の出来事だったり現実感薄い感じだったりした、人はちょっと手を差し伸べたり、一歩歩いたり、チラッと見ることすら億劫で、しないということ。
-中略-
私にも陽治にも他のほとんどの人にも、ヒーロー以外の人間には、現実的な人生、生活、ライフってもんがあるんだ。そういうもの背負ってる人間においては、やっぱり同情心と面倒臭いが綱引きやることになるんだ。「かわいそー」と「だる〜」がいつも戦ってるんだ。それで普通なんだ。
陽治はこのままでいい。このままでいい。
でも陽治にもヒーローになって欲しい。陽治の同情心はちゃんと面倒臭いに勝って欲しい。陽治の貴重な「かわいそー」がだらしないつまらない「だる〜」なんかに負けて欲しくない。陽治がエチオピアやら月の裏やら別の時空に走って行くなら私はすっごく丸ごと全力で応援するし、永遠にいかなる場合でも陽治を肯定し、愛し続けるのに。
いやいや私は今のままの陽治で十分愛して肯定して応援するから。
う〜。

・私はカンちゃんが電話の向こうで泣いてングング喉を鳴らしてクヒーンとか言ってスガスガ鼻を鳴らしてるのを聞きながらなんか冷める。まあでも私も一緒だ。私もカンちゃんと同じでわがままだから、私にはカンちゃんを責める資格なんてないし別に嫌な風に思わない。私も陽治の気を引くためにいろんなことするし、カンちゃんも《いろんなことにおいて正しいことをやるんだしやりたいんだし何かで間違えたらそれを自ら認めてすぐに正していくっていう自分》って自己像を守るためには何でもやるんだ。そんでいいし、そんで普通。頑張れカンちゃん。

Posted by 344 at February 19, 2006 02:59 PM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

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