Log No. 344

薔薇の名前

ウンベルト・エーコ著、「薔薇の名前」を読んだ。

中世、異端、「ヨハネの黙示録」、暗号、アリストテレース、博物誌、記号論、ミステリ…そして何より、読書のあらゆる楽しみが、ここにはある。全世界を熱狂させた、文学史上の事件ともいうべき問題の書。伊・ストレーガ賞、仏・メディシス賞受賞。-「BOOK」データベースより

nameoftherose.jpg
ようやく読み終えた、大作「薔薇の名前」。ウンベルト・エーコと言えば記号論の大家。僕自身は、文学専攻でもないのに何故か履修していた記号論の講義で散々引用されていて知った。文学部の友人に言わせると、般教でも名前が出てくるくらい有名な学者とか。で、その学者が小説を書いていて、しかもそれが大変な傑作だと聞いた時からずっと読みたいと思っていた。イタリアやフランスで最高の文学賞を取ったとか、全世界で1000万部以上売れてるとか、最高のエンターテイメントにして芸術、とかあらゆる書評でベタ褒めされていた。上下巻で4000円と学生にはなかなか手を出しにくい小説だったが正月に古本屋で状態の良いのを買えた(それでも2500円したけど)。そして、最近まで積読本の山に埋もれていて、今日ようやく読み終えた。

結果は、確かに凄かった。凄かった、が・・・巻末の訳者あとがきや、読書家の書評などを読んでみて、自分が面白さの10分の1も体験できていないように思えてショックを受けた。この小説、ストーリーの筋書きそのものもミステリーとして非常に凝っていて面白い。物語の背景であり随所で問題になる当時のキリスト教世界内の軋轢や当時の人々の宗教観などが細かくて興味深い。1300年代を舞台に設定している時点で読書経験の浅い僕には新鮮だったのだけど。でも、著者はストーリーは単なる道具として利用しながら、この作品を通して色々面白いことをやってるみたいなんだけど、それが部分的にしか分からなかった。

例えば「書物の中の書物」というキーワードが出てきた時も、ボルヘスの「伝奇集」(未読)を思い浮かべたが、やはり読んでおいたほうが良かった。他にも、ダンテの「神曲」(これまた未だに読んでない・・)を初めとするその他のヨーロッパ文学の必読書のようなものを読んでいると、この辺のしかけは気付きやすかったんだと思う。この作品に触れるのが、どうも早過ぎたようだった。あと500冊くらい本を読んでからこの本に辿り着きたかった。問題は、僕は訳者に作品の味を損ねられるのが嫌で、翻訳モノを読むのを敬遠するきらいがあるから、海外文学をあまり読んでこなかったという点。それがこんな形に裏目に出るとは・・・原著で読むとしても、せいぜい英語の作品しか読めないわけだけど、ヨーロッパの偉大な作品の多くは本作も含めて英語ではない。うーん、ヨーロッパ言語を自在に読めるようになってみたいと初めて思った・・・名訳!というのがあったら是非お勧めを教えて欲しいです。

今回の件で、何故自分は日本に生まれなかったのかと泣いて悔しがるというアメリカのジャパニメーションオタクの人々の気持ちが少し分かった気がする。

とにかく20年後くらいに読み返してみたいと思わされた作品。読書歴に自信のある方、もしくは文学の構造分析などが好きな人にはお勧め!!

Posted by 344 at August 05, 2006 07:50 PM | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

この記事のトラックバックURL


この記事に対するトラックバック



Made with dreamweaverMade with fireworksPowered by Movable Type 2.661Powered by Wandering Wind