Log No. 344

個人的な体験

kojinteki.jpg大江健三郎著、「個人的な体験」を読んだ。脳に障害を持って生まれてきた赤子を、母親と対面させる前になんとか死なせようともがく男の物語。暗く陰鬱な展開が続くのに、非常に読みやすかった。大江文学をまともに読むのは初めてなんだけども、その多彩で豊かな表現力にまず驚かされる。表現がいちいち凝っているので暗くとも飽きずにサクサク読み勧められたのかもしれない。ラストの展開には正直驚かされた。そんなバカな、と。そしてエピローグの蛇足。

でも、自分は所謂「後日談」が好きである。小説としては、スパっと切れたほうが威力があるのは分かる。読者に委ねる、ということが大きな意味を持つことも分かる。ご都合主義に過ぎたり、わざわざ加えるべきでない、ぬるくてどうでもいい話がエピローグに多いのも知っている(この作品でも、作品としてはこのエピローグはいらないだろ、とやはり思った)。だけども、それでも「後日談」を読みたい、という欲求には抑えがたいものがある。物語の世界観に入り込むあまり、どんなどうでもいい話でも、その世界の人々の話が知りたい、という欲求。物語の続きに救いを求めることを、こちらの解釈と想像だけに任せることは、ある意味旅立つ友人の先行きに対する気がかりを、想像だけで満足させるようなものだ。やっぱり、友人がどうしてるか、友人からの回答が少しは欲しいと思ってしまうのだが、文学にそれを求めるなということなんだろうか。

とにかく、僕はこの作品にある「後日談」は肯定的に受け止めているわけです。他にも似たモチーフで色々書いているそうなので、違うテーマの作品を読んでみたい。文章もつぼにはまったし、人に勧めたくなる作家です。

Posted by 344 at March 31, 2006 11:56 AM | コメント (0) | トラックバック (0) | Clip!! | Edit

この記事に対するコメント


コメントを投稿する










名前やメールアドレスを保存しますか?








この記事のトラックバックURL


この記事に対するトラックバック



Made with dreamweaverMade with fireworksPowered by Movable Type 2.661Powered by Wandering Wind